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はるか後ろから追いかけて

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文:丸岡 九蔵 (漫画家)

『サクランボの丸かじり』(東海林 さだお)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #随筆・エッセイ

『サクランボの丸かじり』(東海林 さだお)

 本書『サクランボの丸かじり』は文章によるエッセイです。

 ですが、著者の東海林さだお先生は漫画家です。

 そんなわかりきったことを何故わざわざ書いてるの? と思う方もいるかもしれませんが、少々おつきあいください。東海林さだお先生は早稲田大学の学生サークル「漫画研究会」の出身です。そして、今回解説を務めさせていただく私、丸岡九蔵も早大漫研出身。つまり、サークルの先輩後輩という間柄なのであります。

 

 早稲田大学漫画研究会は1955年の設立。昭和から平成そして令和の現在まで存続していますので、70年近い歴史があります。輩出した人材は、漫画家だけに限っても、東海林さだお、園山俊二、福地泡介、弘兼憲史、国友やすゆき、井浦秀夫、ラズウェル細木、やくみつる、カトリーヌあやこ、さそうあきら、安倍夜郎、けらえいこ、現代洋子、日高トモキチ、モリナガ・ヨウ(敬称略)……書き切れません。

 東海林先生が早大漫研に入部したのは設立間もない1958年。私、丸岡が入部したのは2001年。その間43年もの時が離れています。

 これほど年齢が離れていますので、直接お話ししたことは、実は……ありません。何しろ私が生まれた頃にはすでに東海林さだお作品(漫画/エッセイ/対談などなど)は新聞、週刊誌、月刊誌、親の本棚―あらゆる場所に存在していましたので、物心ついた時には自然に刷り込まれていました。中でもやはり丸かじりシリーズがおもしろく、折り詰め寿司に入っているバランをホーフツとさせる鮮やかな緑色をした文春文庫の背表紙が、強く印象に残っています。

 子どもの頃から漫画家になりたかった私は、右に挙げたようにプロ漫画家を多く生み出した早大漫研に憧れを抱き、ゼヒ入部したい一心で受験しました。

 

 東海林先生が大学生時代を回想して書いた本に『ショージ君の青春記』(1976年・文藝春秋刊)があります。今回読み返してみると驚いたことに、私自身の早大漫研での体験と全く同じことが書いてある!

 正確にはもちろん漫研設立初期に居た東海林先生の方が先で、その際の取り組みが今日までサークル内に受け継がれているということです。「大学の学園祭で来場者の似顔絵を描き、活動費を稼ぐ」「新入生歓迎コンパはそば屋の二階で大々的に」などは私の学生時代、2000年代前半も全く同じでした(ちなみにこのそば屋、現在も営業中!)。漫研のツテで似顔絵やイラストの仕事をもらっていたので普通のアルバイトは体験せず。そんなに稼ぎが多いわけでもないのに、サークル仲間とほぼ毎日酒を飲んで遊んでました。あの飲み代はどこから湧いてきてどこへ消えたのかしら……?

「なんとかなるさ」と根拠なく楽観的に過ごしつつも心の底では将来への不安を覚え、ひとりの時はクヨクヨ過ごす……ここも同じ。ショージ青年が自分と同級生であるかのようで、大先輩を少し身近に感じられました。

 とはいえショージ青年がプロ漫画家になろうと奮闘していたのは1959年。現在より遥かに漫画の市場が小さい時代でした。ようやく漫画週刊誌が出始めた頃。『青春記』に描かれている、編集者に何度断られても売り込みを続けるショージ青年の姿は涙なしには読めません。

文春文庫
サクランボの丸かじり
東海林さだお

定価:759円(税込)発売日:2022年04月06日

電子書籍
サクランボの丸かじり
東海林さだお

発売日:2022年04月06日

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