そしてその後、多くの読者をトリコにしてきた東海林先生の観察眼・発想力・描写力は本書でも相変わらず炸裂! たとえば、「ポテトチップ解放運動」の中の一節。ポテトチップと高級ビスケットを比べ、
高級ビスケットは、それぞれの形に合った枠が組まれていて、その中に重ねられているので揺れ動かないから毀れない。
ポテトチップは雑居房であるから揺れ放題、毀れ放題。
ここで「雑居房」という言葉を用いる鋭さ! 今二十代の若手お笑い芸人が読んでも嫉妬するであろうワードセンス! しびれます。
「ワンタン麺の魂胆」のワンタンについての描写もすごい!
ワンタンの中央本部は極めて小規模である。
大豆粒ほどに中央がふくらんでいて、その部分以外はすべてべろべろ部として展開している。
べろべろ部って!
「スナック菓子をボリボリ」の絵。お菓子の「カールはモフモフ系といわれている」。さらりと書かれてますけどこれにも感服。ワンタンもカールも何度食べたかわかりませんが、こんなに鮮やかに表現できませんって。
「ビールは泡あってこそ」に付いてる絵もイイ! 銅製や錫製のジョッキは中が見えないのでビールの泡が確認できなくていかん、と書いている部分に添えられた絵。錫製のジョッキが「すぐ冷えしかもぬるくなりません!」と誇らしげに主張しているその横に著者の反撃「それがどうしたッ」。泡も見えないくせに何言ってやがる、と鋭いツッコミ。この最後の小さい「ッ」が勢いがあってリズミカルで最高です。
「わたしサクランボのファンです」に至っては鳥肌もの。
果物というものは、もともと皿の上で動いたりしないものなのだが、サクランボに限ってふとピクリと動いたりすることがあったとしても、
「ありうるな」
と思わせるところがある。
「サクランボは動くかも」なんてシュールな意見だけど、こう書かれてみるとそんな気がしてくる……。発想力に脱帽であります。例を挙げていくと切りがないですね。
文章はもちろんおもしろい。絵も最高。両者が合わさるこの丸かじりシリーズは向かうところ敵なしだなぁ~……なんて、改めて実感しました。なんとも浅い感想!
本書の読者である皆さんはようくご存知だと思いますが、食事や酒に関する表現は、現在、本・漫画・雑誌・ドラマや映画などあらゆる媒体にあふれ返っています。
特に食にまつわる漫画はとても増えていて、コンビニへ行けば「グルメ漫画専門雑誌」が何冊も並んでいます。私自身もそれらの雑誌に食・酒漫画を描いて暮らしているわけですが、そもそもこのジャンルの元祖が東海林さだお作品なのではないでしょうか!
東海林先生が何十年も描いて書いてきた結果が、現在のグルメ表現百花繚乱ブームである、とここに断言させていただきたいと思います。
質量ともにとても及びませんが、私もいち読者として作品を楽しみつつ、東海林先生が切り開いている道をはるか後ろから追いかけてゆく所存です。
ショージ君の青春記
発売日:2002年10月20日