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「何とかおせんを愛される子に!」――大反響『貸本屋おせん』はこうして生まれた(高瀬乃一)

「何とかおせんを愛される子に!」――大反響『貸本屋おせん』はこうして生まれた(高瀬乃一)

聞き手:「オール讀物」編集部


ジャンル : #歴史・時代小説

『貸本屋おせん』(高瀬 乃一)

――昨年11月に刊行された高瀬乃一さんのデビュー単行本『貸本屋おせん』。現在3刷がかかり、とてもよく読まれていますね。

ありがとうございます。多くの方に読んでいただけてうれしいです。

――『貸本屋おせん』は、江戸・文化年間を舞台にした時代小説。天涯孤独の身で貸本屋を営むおせんが主人公です。本のカバーには高荷を背負った女性の絵が描かれていますが、当時の貸本屋はこういうふうに本を担いで江戸の街を歩いていたのですね。

お店を構えている貸本屋さんもあったみたいですけれど、この時代、家々をまわって本を貸すのがスタンダードだったようです。青物屋さんとかお魚屋さんをイメージしてもらえればわかりやすいですが、振り売り、棒手振りと同じように貸本屋もお得意先をまわり歩き、客の好みを聞いて本を揃えて、手頃な値段で貸して、また返してもらう。こういうやり取りをしていたみたいですね。

――高瀬さんは2020年、このおせんを主人公にした中編「をりをり よみ耽り」で第100回オール讀物新人賞を受賞されました。つまりこの貸本屋さんの設定は、新人賞の応募作品だったわけです。しかも驚くべきことに、江戸を舞台にした時代小説を書くのは初めてだったそうですね。

はい。時代小説にチャレンジしようと思い立って、資料を読んだり、当時の錦絵を見たりする中で、ひときわ高い荷物を背負って歩いている行商人をみつけて、これは何だろうと思ったのが貸本屋に興味をもったきっかけでした。本当にまったく知識ゼロの状態からのスタートで、徳川十五代の将軍の名前もあやふやなくらいだったので、大変でしたが……。

私は青森県に住んでいるのですが、近所に大きな本屋さんがないものですから、お隣の八戸市にある八戸ブックセンターに行きまして、江戸時代に関する本を10冊ぐらい買って、基本的なところから勉強を始めました。ただ、貸本屋について書こうと思うと、それだけでは足りなくて、あとはとにかくAmazonで片っ端から本を買い漁りました。

――Amazonだと立ち読みもできませんが、資料を選ぶコツなどはありますか。

最初のうちはガチャガチャのようなものでした(笑)。とにかく検索して、江戸の出版文化について書いてあるらしい本を注文できるだけ注文して、手元に届いて開いて初めて「あ、こういう本だったか」と。すぐに役に立つ資料もたくさんありましたけれど、これは今はまだ要らないなという本もありました。ただ、何冊か本が手元に揃ってきますと、本の巻末に載っている参考文献リストを頼りにしてさらに資料を集めていけるようになりました。また、私は東京で暮らしたことがなく、具体的な町の描写とか、浅草から日本橋までの距離感などがまったくわからなかったので、やはりAmazonで買った大判の古地図がとても役に立ちましたね。

――資料を集めるだけでも大変そうです。

パートのお給料をすべて本につぎ込んで、生活費を切り詰めて、という感じだったので、家族には多大な迷惑をかけてしまったなと今では反省をしてるんですけれども(苦笑)。無事におせんが新人賞を受賞して、1冊の本になって本当によかったなと思っています。

――『貸本屋おせん』には全5話が収録されています。曲亭馬琴の『椿説弓張月』をはじめ、有名な作家の作品が登場する趣向が楽しいですし、さらに馬琴の新作が盗まれるなど(「板木どろぼう」)、毎話必ず本をめぐる事件が起き、おせんが探偵役を務めます。いわば江戸ビブリオ捕物帖のような面白さもありますが、様々な事件のアイディアはどういうところから生まれてくるのでしょうか。

家族との会話とか、パートに出て自分が経験したこととか、日々の生活の中から物語の核を思いつくことが多いかもしれません。今回の本で言うと、3話目の「幽霊さわぎ」は、娘との会話がヒントになりました。娘が3人いるんですけれども、娘たちがスマホで写真を撮りあって、アプリで加工するわけですね。そんなに加工した顔でいいの? あなたの素の顔はどこにあるの? と娘たちに聞いたら、「綺麗な顔が残せないと恥ずかしい」という返答が来た。元の顔がわからなくなるくらい写真を加工するのは今の若い人たちの常識なんだろうけれど、ちょっと私には理解できないなと思って、この理解できない感じを江戸時代の錦絵にもっていったら面白いんじゃないかなと思ったんですね。

――「幽霊さわぎ」は、死んだはずの団扇問屋の主が生き返ったという大騒動をきっかけに、おせんが不可解な殺人事件に巻き込まれていく物語です。ほかにも、源氏物語の幻の帖『雲隠』を探してくれとおせんが依頼を受けたり(「松の糸」)、江戸を騒がす放火事件の謎に迫ったり(「火付け」)、盛りだくさんの1冊になりました。高瀬さんはもう2冊目の原稿に着手しているそうですね。

いろいろ調べものをしないといけないですし、筆も早くないので、少しずつですけれども、「2巻目を出す」という新しい目標に向かって鋭意執筆中です。どんどん動いてくれる主人公おせんがいるので、この子を核としてどんな人たちを出そうかと考えるのは楽しいです。また、おせんをどう成長させていけばいいのかとか、どうやったらみんなに愛してもらえる子になるだろうかって、子育てみたいな苦しみも感じていますね。

――ぜひ、多くの人に『貸本屋おせん』を手に取っていただけたらと思います。

単行本
貸本屋おせん
高瀬乃一

定価:1,980円(税込)発売日:2022年11月25日

電子書籍
貸本屋おせん
高瀬乃一

発売日:2022年11月25日

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