- 2023.07.13
- 文春オンライン
電飾ギラギラの落下傘を背負えるのはジュリーだけ…「僕は見世物」と語った、スター・沢田研二の“生真面目さ”
藤井 聡子
藤井聡子が『ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒』(島﨑今日子 著)を読む
「いつでも一緒に死んでもいい」。演出家・久世光彦、内田裕也、萩原健一が熱烈に求愛する相手。それが不世出のスーパースター“ジュリー”こと沢田研二だ。彼の足跡を追った島﨑今日子の連載が大幅加筆されて書籍化。関係者から一般のファンに至る69名の証言を通し、大いなる虚像に身を投じた男の実像が時代のうねりと共に浮かび上がる。
全共闘運動が全国に拡大した1967年。ザ・タイガースのボーカルとして18歳でデビューした沢田は、甘い歌声と美貌で少女たちの心を一撃する。4年の狂騒を終えた後、ロックバンド・PYGの挫折を経て、加瀬邦彦のプロデュースでソロ活動へ邁進する。
加瀬に抜擢された気鋭のスタイリスト・早川タケジは、沢田にアイシャドウを施し、金のキャミソールをまとわせパールをあしらった。その両性具有的な妖艶さで、最大のヒット曲『時の過ぎゆくままに』が結実。『勝手にしやがれ』『カサブランカ・ダンディ』といった作詞・阿久悠、作曲・大野克夫の名曲を後ろ盾に、時代を席捲していく。
1979年生まれの私は、沢田に思い入れがあったわけではない。しかし連載を読み、ジュリーに頬を赤らめる久世の姿に下世話なハートがキュン。恋のお相手を見てやろうとDVDを挿入したが最後、沼にはまった。特に衝撃だったのは『夜のヒットスタジオ』での『サムライ』だ。床に敷き詰めた畳50枚、鮮血に染まる空、走る稲光、舞う紙吹雪。盆と正月に唐獅子牡丹が殴り込みにきた騒ぎの中、艶のある歌声を響かせ、短刀をかざしたジュリーが圧巻の頽廃美を放つ。絶句するほど美しく、そこに居るのに「どこにも居ない」非現実感が凄まじかった。それから私はツイッターで毎日「じゅじゅジュリ~!」と叫ぶ健康法に励んだ。
本書の中で何度も証言されるのが沢田の生真面目さだ。どんな突飛な仕事も黙ってやり遂げた。歌番組ではカメラ位置を全て把握し、どのアングルにもキラーポーズで返した。テレビ越しにジュリーが佇めば、茶の間は一気に非日常へ跳躍した。普段は「部屋着は空手着」と公言するほどの無頓着だが、表現の開拓のためなら紅をひくしヒールも履くし、全裸にもなった。「僕は見世物。客は上から見ていればいい」。ジェンダーを越境し既存に抗いながら、いかに大衆を魅了し“一等賞”を獲得するかという無茶ブリに奮闘し続けた。電飾ギラギラの落下傘を背負えるのは、宇宙広しといえどジュリーだけだ。島﨑は言う。「沢田には他者の視線に身を委ねる覚悟があった。見られることで崩れるプライドは必要としなかった」。
6月25日。満員御礼のさいたまスーパーアリーナで75歳を迎えた沢田は、転がり続ける石のごとくステージを駆け回った。我々にはジュリーがいた。そして、ジュリーがいる。その凄みを、島﨑の力強い筆致が教えてくれる。
しまざききょうこ/1954年、京都市生まれ。ノンフィクションライター。著書に『森瑤子の帽子』『安井かずみがいた時代』『この国で女であるということ』『だからここにいる』『〈わたし〉を生きる』など。
ふじいさとこ/1979年、富山県生まれ。著書に『どこにでもあるどこかになる前に。』。ピストン藤井の筆名でライター活動も。
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