- 2023.10.26
- インタビュー・対談
学べば何かが変わっていく! 定時制高校科学部の青春――『宙(そら)わたる教室』(伊与原新)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
科学的な視点を織り込みながら、多彩な人生模様を描いてきた伊与原新さんの最新作は、定時制高校が舞台。理科教師の藤竹に誘われて「科学部」の活動を始めた生徒たちが、それぞれの事情や互いの衝突を乗り越えて、教室に「火星」を作り出す――。生徒たちの年齢もタイプもバラバラだが、まっすぐな青春小説である。
「かつてお世話になった人に、日本地球惑星科学連合大会の高校生セッションで抜群に面白い研究があったと聞いたんです。優秀賞を獲得した研究を発表したのが、定時制高校の科学部の人たちで、メンバーはさまざまな年齢で構成されていました。研究自体がとても面白くて、はじめて定時制高校というものに興味を持ったんです」
学校での勉強についていけず、次第に荒れた生活をするようになった21歳の岳人は、運転免許を取るために、定時制高校に通っている。しかし、教科書の文字がうまく「つかまらない」。また挫折しかけていたところで、藤竹と話すうちに、驚愕の事実が判明する。
「藤竹は、もともと教師になりたくてなったわけではないので、教師として熱意がある人ではないんですよね。自分もそうだったから、わかるんですが、理系の研究者は、優しい言葉とかで人を励ますことを恥ずかしく感じるタイプが多くて。ウェットな部分を出すのが嫌いだし、苦手なんですよね」
そんな藤竹だが、淡々とした人柄で、次第に、科学部のメンバーを集めていく。小学校に通えなかった中年女性のアンジェラ、集団就職で上京した70代の長嶺、起立性調節障害で不登校になっていた佳純。彼らは、科学部の活動を通して、学ぶ喜びを発見していく。
「ぼくは、どんな分野でも、体系だったものを一生懸命学ぶことで、いろんなことがクリアになると思うんです。ちゃんと勉強して、1つでも光が当たれば、他のことも見通しが良くなると、自分の経験からも感じていました」
全日制の生徒でコンピューター部の要は、部室を定時制の科学部の実験のために使わせてほしいと頼まれる。同じ高校でも出会うことがなく、どこかで見下していた定時制の生徒たちが、学会発表を目指していると聞き、要は驚く。そして、彼らとの交流は、要の心にも大きな変化を生む。
「ごく普通の高校生である要の視点で科学部のメンバーを描いたことで、いい方向へ物語が動きました」
やがて、藤竹自身が、ある「実験」を試みていたことが明らかになる。2つの「実験」の結果はどうなるのか。学ぶことへの信念に、心を揺さぶられる物語だ。
いよはらしん 1972年生まれ。2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。19年、『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞を受賞。
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