本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
『八秒で跳べ』著者が柳田将洋選手と念願の初対談!

『八秒で跳べ』著者が柳田将洋選手と念願の初対談!

柳田 将洋,坪田 侑也

柳田将洋×坪田侑也『八秒で跳べ』対談

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 高校のバレーボール部を舞台にした青春小説『八秒で跳べ』を上梓した、作家の坪田侑也さん。中学時代からバレーをはじめ、現在も慶應義塾大学医学部体育会でバレーを続けている。そんな坪田さんが、長年尊敬し続けてきたプロバレー選手、元日本代表主将の柳田将洋さんを訪ねた――。

作家の坪田侑也さん(左)とプロバレーボール選手の柳田将洋さん

◆◆◆

医学部に通いながら小説を書き上げて

坪田 柳田選手は慶應義塾大学の先輩で、僕の中では中学でバレーをはじめた時から、ずっと大きな存在でした。対談の機会をいただいて本当に緊張しています。

柳田 坪田さんは医学部に通いながら、小説を書いていらっしゃるということで、いったい、どういう時間の管理をされているのか――大学でもバレー一色だった僕からすると、めっちゃ気になっています(笑)。

 

坪田 授業自体がそんなにあるわけではないので、週に3回くらいはキャンパスに通って、原稿を書いて、週に2回くらい夜は近所の小学校の体育館でバレーをして、みたいな生活です。

柳田 ぼくはSFC藤沢キャンパスでしたけど、医学部はどこに?

坪田 慶應病院の隣りで信濃町です。三田や日吉はすごく広いけど、信濃町はビル二つあるくらいで狭いし、もちろん体育館もありません。医学部の部活は今しか出来ないことだからか、どこの大学でも結構盛んで、地方の医学部では自前の体育館があるばかりか、寮に入っているんで、授業が終わったら寝る時間までバレーをしているチームもあります。そんな人たちには絶対に勝てない(笑)。執筆については、常にがんばりたい気持ちはあるんですが、詰まってしまうこともよくあるし、意識していてもさぼっちゃったりもします。

 

柳田 それでも十分にすごいです。僕は休むなら完全に頭も身体も休む、という感じのタイプなので。

坪田 オフの日って、どんな感じなのですか。

柳田 リーグ中だったら月曜日がオフで、火曜日から木曜日が練習、週末が試合というパターンになりますが、僕は月曜日はバレーのことは、基本は考えないようにしています。たぶん年齢を重ねてくると、バレーよりもリフレッシュを心掛けている人が多いような気がしますね。僕も若い頃、日本代表に入って2年目くらいの時は、休みの日も海外チームの動画を見たり、監督がこう言った、ああ言ったなんてずっと考えていたんですけど、結局、根を詰めすぎても、どこかでパンクしてしまう瞬間があることに気付きました。

 

坪田 割と意識的に休まれているんですね。具体的なオフの過ごし方というのは?

柳田 バレーは館内競技で外に出る機会がないから、どうしても出かけたくなるんですよ。車を運転するのも好きですし、リフレッシュのためには外出することも多いですね。本を読んだりすることもあって、今回も『八秒で跳べ』を読ませていただいています。まだ途中なんですけど、中学時代から万年補欠だった北村君が、主人公の景からレギュラーを奪って、佳境に差し掛かったところです。「おい景、大丈夫か!?」みたいな気持ちで、早く続きが読みたい(笑)。

 

坪田 ここからさらに物語が展開するはずです。

柳田 そこは「おい、景ちょっと無理するな。怪我が再発するぞ」みたいな感じかな(笑)。最初のページを開いた時に、主人公の怪我の描写から入るんですが、あそこはリアルですね。僕も捻挫をした経験があるから、「めちくちゃ分かる。その表現!」と思いました。

坪田 僕も同じ怪我を高校時代にしたことがあって、それをそのまま書こうと考えて書きました。リアルに読んでいただいて嬉しいです。

『八秒で跳べ』(坪田侑也 著)文藝春秋

柳田 怪我した場面をフラッシュバックすることは僕もあって、そのことを思い出したりもしました。最近では、漫画『ハイキュー!!』が大人気ですけど、バレーボールというものを活字で読める機会が、これまではあまりなくて、こういう共感を覚えるコンテンツがあるんだと嬉しくなりました。

高校時代は不安の中で部活を

 

坪田 僕自身は高校1年生の時に、作家デビューと同じタイミングで、バレー部を辞めてしまったので、高いレベルのバレーをあまり知りません。そこは自分としては、大丈夫だろうかと心配しながら書いていたんですが……。

柳田 レベルの高い低いにもよりますが、高校生っていま自分が置かれているところが、絶対に不完全ですよね。たとえ高校チームとして強豪だったとして、どんなに上手だったとしても、その先に僕らみたいなプロがいる。自分はまだまだかな、その先に行けるんだろうかっていう、不安の中で部活をしていますよね。

 

 僕自身もそういう感じで、正直、高校時代は、バレーを続ける気持ちがない時期もありました。この先、バレーを続けていても何かいいことがあるのか? 何に繋がるのか? そういった葛藤があって、春高バレーで優勝した高校の人間として読んでも、共通するものがあります。「俺だったらこうだったな」「俺にはこういうところはなかったな」と、自分に落とし込んで、坪田さんの小説に没入することができました。

バレーボールにおける重要なメンタルとは!?

 

坪田 僕は『ハイキュー!!』に影響を受けて、中学からバレーをはじめましたし、『ハイキュー!!』を読んだから、バレーに興味を持ったという同級生も多かったですね。ただ、バレーボールの動きや、迫力を文字で書くのは難しくて、それは漫画やアニメのように、動きを見せられた方が絶対に面白い。だから『八秒で跳べ』では、登場人物たちのメンタルの部分を書こうと意識しました。

柳田 確かにメンタルな部分は、結構、読みながら感じていました。すごい考えすぎていて、何だか大丈夫か、と(笑)。

 

坪田 高校生にしたら考えすぎかもれないし、どうしてもうじうじした、主人公を書きがちなんですよね(笑)。

柳田 バレーボールにおけるメンタルは確かに重要だと思うし、これだって非常に表現することが難しいですよね。たとえば、局面が変わっても同じプレーができる、どんな苦しい場面でも、練習で落とし込んだ技術の再現性がある。その上で必ず結果を残せるのが、プロなわけですけど、高校生はそういうわけにはいかないのが、僕自身の経験としても分かります。

杭州アジア大会の主将として

坪田 どうしても今回、柳田選手に聞いてみたかったことがあるんです。昨年の杭州アジア大会で、日本代表Bチームのキャプテンとして、多くの年下の選手を従える役割になってきたのかと、勝手に想像していました。そういう役割の変化によって、試合中のメンタルも変わってくるんですか。

 

柳田 いや、僕はあんまり……B代表のキャプテンをやらせてもらった時には、そういったことも言われて、一緒に活動をしたんですけど、僕は「年上だから」「年下だから」というのは、あんまり好きじゃなくて。同じステージで、プロとしてバレーボールをしている以上、年齢の基準は関係ないし、必要ないと思っています。それは日の丸をつけていても、自分のチームの東京グレートベアーズでも同じです。

 年齢で優劣をつけるのではなく、ひとりの選手同士として対峙するのが、僕の好きなというか、理想とするチームの雰囲気。たとえば僕が言ったことに、年下の選手がすべてイエスで、右ならえ右じゃなく、みんなが能動的で、僕と意見が違えばきちんと言ってくれれば、そこで議論が生まれて、問題が解消して、チームの質も高まります。

 

坪田 つまりそれでチームが強くなっていくわけですね。

年齢は言い訳にできないぞ、って…

柳田 そうです、そうです。20歳でも、19歳でもいいんです。僕は31歳になりましたが、そこは平等に話し合って、もし間違っていれば正せばいいし、そこはキャリアで何とかなると思っています。上から頭ごなしに言ってしまうと、下の子たちは考えることを止めてしまうので、シチュエーションによっては、話し合いの場を設けることもありますけど、それは人生ちょっとだけ長く生きているだけで、先輩としてやらなければ駄目なこともあります。

 

 単純に僕自身、先輩後輩の上下関係が好きではないので、僕も同じ歳みたいに接するし、年下の選手が年齢を取っ払ってくるのは、まったく気にしません。その代わりみんな同じ、同じ土俵に立っているんだからな、年齢は言い訳にできないぞ、って……そんなプレッシャーはかけないですけど(笑)、そういう勝負の世界に早く入ってほしいという気持ちできました。

坪田 そういう考え方なんですね。さらにこの先、ご自身について考えていらっしゃることはありますか。

 

柳田 選手はいつか引退が来ます。でも選手人生を終えたとしても、何かバレーボールには関わっていたいですね。たとえば、リーグ改革とか、クラブ経営とか、まだ分からないですけど、そういうものにも興味があって、いろんな記事を読んだり、もちろん自分でも勉強しています。最近、なぜか『孫子の兵法』を読み始めて――経営者の人たちが読んでいるというのを聞いて、これも何か将来に役立つんじゃないかと(笑)。

 そんなに集中して読めないので、『孫子の兵法』もまだ途中なんですが、『八秒で跳べ』の続きが、坪田さんと話していてさらに気になりました。きょう帰ったら、それをまず優先して読みます!

坪田 ありがとうございます。

(2024年3月21日)

 

柳田将洋(やなぎだ・まさひろ)
1992年、東京生まれ。東洋高校2年時に主将として春高バレー優勝。慶應義塾大学在学時に全日本メンバーに登録。15年、サントリーサンバーズ入団、17年、プロ選手としてドイツ移籍。18年から20年まで男子日本代表主将を務める。23年、杭州アジア大会でもB代表主将として銅メダル、東京グレートベアーズに入団。

 

坪田侑也(つぼた・ゆうや)
2002年、東京生まれ。2018年、15歳の時に書いた『探偵はぼっちじゃない』で、第21回ボイルドエッグズ新人賞を当時史上最年少で受賞、翌年KADOKAWAより出版された。中学、高校時代はバレー部に所属。24年、高校のバレー部を舞台にした青春部活小説『八秒で跳べ』を上梓。現在、慶應義塾大学医学部に通う。

写真=榎本麻美
ヘアメイク=k.e.y小池康友
協力=東京グレートベアーズ

単行本
八秒で跳べ
坪田侑也

定価:1,870円(税込)発売日:2024年02月10日

電子書籍
八秒で跳べ
坪田侑也

発売日:2024年02月10日

提携メディア

ページの先頭へ戻る