私は、何かひとつ「美味しい!」と感じるものがあると、飽きるまでそれを食べ続けるという悪癖があります。以前のコラム(第41回:偏食と牛乳寒天)でも書いたように、まずはいろんなタイプのものを買い漁り、それに満足出来なくなると自分で作り出す、なんてこともしばしばです。
そう言えば牛乳寒天にハマる前はプリンにハマっていましたね!
このコラムでは毎度お馴染み、文藝春秋の執筆室で缶詰していた時のことです。私は某メーカーさんのプリンが小さい頃から大好きで、浮気をしたことはほとんどなかったのですが、あまりに潤いのない缶詰部屋の生活に飽きて唐突に「文春周辺のプリンを食べ比べてみよう」と思い立ちました。
打ち合わせ兼ランチの時や、買い出しのために外に出ることは許されていたので、そのタイミングでちょっと足を延ばし、某コンビニ各店や某成城〇井さんや近隣のパン屋さんを回りました。そこで購入した特製プリンの感想を、いちいちWordにまとめて書いていたのです。「卵の味が濃くて美味しい」「ゼラチン味強し」「私の中でこれはプリンというよりゼリー」「カラメルが絶品」「手作り感が強い」「固めの昭和プリンが好きな人は好きそう」みたいな、誰かに見せる予定はまるでない、独断と偏見のチャートでした。
ここまで書いて気付きましたが、今思うとこれって完全なる現実逃避ですね……。
「そんなレポート書いている暇があるなら1行でも多く原稿進めて下さい!」という声がどこからともなく聞こえてきそうですが、私がプリンを買い漁っていると知った編集さん達は、出張で全国各地を回って帰ってくると「阿部さんにどうぞ……」と、そっとご当地プリンを差し入れてくれることもありました。
無事に缶詰が終わって帰宅した後、「この知見は理想のプリンづくりに活かせるのでは!?」と思い立ち、プリン自作に挑戦もしました。が、結局、労力と材料費と味が見合わず、「小さい頃から好きな某メーカーさんのプリン」を買って来たほうがはるかに美味いし早いという結論に至り、寒天と違って自作レシピを構築するまでには至りませんでしたね。
そう。世の中の「美味しいもの」には、自力で作れるものと作れないものがあります。
そして先に申し上げたように、私は一回ハマると長期間それにハマり続ける人間です。
もし、自力では作れないものにハマってしまい、しかもそれが一時期大流行して、いつでもどこでも手に入るという状況がデフォルトになった後、その流行があっと言う間に過ぎ去った――という状況に陥ったとしたら、中々に悲劇だと思いませんか?
タイトルの時点で皆様お察しかと思いますが、はい、私がそうなりました。
犯人はタピオカミルクティーです。
この話をした時、「タピオカ!? 阿部さん、今になってタピオカにハマっているんですか!?」と編集さんに「信じられない、こいつ流行りの一周前に生きてやがる!」みたいな目で見られましたが、未だにタピオカミルクティーとマブダチ関係の人間は絶対一定数いると思います! と、いいますか、タピオカミルクティーはもはや流行りを越えて日本の食文化の定番メニューになっていると信じきっていたので、まさかコンビニからその姿が見えなくなる日が来るとは、全く考えてもみませんでした……。
私とタピの因縁について、軽く済ませるつもりだったのですがなんかやたら長くなってしまったので、次回に続きます!
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc