☆前回までのあらすじ
私はタピオカミルクティーにハマったままなのに、どんどん町からタピオカが消えていくぞ!?
タピオカミルクティーはタピオカパール買えば自力で作れるやんと思われた方もいらっしゃるかと思いますが、私が好きなタピオカは、中に若干芯が残ったようなモチモチ系の奴ではなく、サクッとした軽い歯触りの奴なんです。
以前は最寄りのコンビニやスーパーにそれ系のタピオカミルクティーは大量にあふれていましたし、街角には専門店までありました。
それが今やこの惨状ですよ……。
いや、まだそこかしこに生き残っているのは分かっています! 昔から変わらず経営している伝統的なタピ屋さんからすれば失礼な物言いだったかもしれません!
でも外出する度に購入していた最寄りのコンビニからタピオカミルクティーが消えた時は、世の潮流を感じざるを得ませんでしたね……。「コンビニからタピオカミルクティーが消える日が来るんかいな!?」と叫びそうになりました。
当たり前と思っていたことが失われて、初めてそれが特別な幸せだったことに気付く。
あまりにありふれたフレーズですが、あれは真理だと思います……。
とにかく、最寄りのタピ補給所を失った私は、以降、まだタピが生存している家から離れた別のコンビニまで足を延ばさざるを得なくなりました。
しかしそうなると当然ながら、このエリアに残った数少ないタピをめぐり、私以外にも存在するタピ愛好者との間で熾烈な争奪戦が繰り広げられることになるわけです。
わざわざ遠出して出向いたコンビニで、タピオカミルクティーのラベルだけあって実物がない棚を前に「くそっ、遅かったか……!」と膝に手をついた経験は1度や2度ではありません。
そして私は、自分自身がそんな悲しい思いを繰り返した後、熾烈な戦いに身を投じるよりも思いやりを持ったほうがいいのでは? と、ひとつの自分ルールを設けるに至りました。
棚にタピが3つ置いてあった時は、購入するのは2つまで……2つしかなかった時は、買うのは1つだけ……と、買いだめしたい衝動をぐっと堪えて、「ラス1だった場合を除き、棚に1つは残す」というルールです。
実際、それによって他のタピ愛好家が救われたのか、無駄な気遣いだったのかは分かりませんが、「欲張っていいことはないぞ」という自制をこめての買い方でございました。
ところがある時、そんな自分ルールで生きていた私に、魔の差す出来事がありました。
棚にあった2つのタピオカミルクティーを見て、私の中の悪魔が囁いたのです。
「2つとも買っちゃえよ!」と。
この時、私は原稿の締め切りに追われ、自主缶詰の状況にありました。次に家を出られるのは1週間後であり、その間の食糧を確保するための買い出しの最中、2つ残ったタピと目が合ってしまったのです。
いつもの自分ルールに則るならば、1つは買ってもう1つは顔も知らないタピ同好の士のために残す場面でした。でも、締め切り間際で頑張っている最中だし……自分へのご褒美のためにちょっとくらい贅沢してもええんやないんか……? 甘い物補給して原稿を頑張るんや……いわばこれは仕事のための必要経費みたいなもんやで……? と似非関西弁の悪魔が私の耳元でマズルカを踊りながら囁いてきたのです。
ちなみに天使のほうは「1つ残しのルールって結局はお前の自己満足だしな。タピオカって美味しいよね」とまるで役立たずでした。
私は自分の欲に屈し、自分ルールを破って2つのタピを買い占めてしまったのです。
それがとんだ惨劇を引き起こすとも知らずに……。
☆まさかの第3回へ続く!
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
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