書評

ダウンタウンと昭和芸人と。昭和と2016年をめぐる芸人論序説

文: 笹山 敬輔

『昭和芸人 七人の最期』 (笹山敬輔 著)

 近年、お笑い芸人の「引退」についてニュースになることが多い。芸人が、少しでも「引退」をほのめかすような発言をすると、すぐにネットで話題となる。これは、第一に、活躍している芸人の年齢層が上がっているからだろう。だが、それに加えて、人々が芸人の晩年に対して、特別な何かを感じているからでもあると思う。

 お笑い芸人は、他の芸能に比べて、晩年を穏やかに生きることが難しい。歌手は、ヒット曲が出なくなっても、歌が下手になったとは言われない。また、俳優は、主役を演じることがなくなっても、脇役として渋い演技を見せる道がある。彼らは、昔より人気を失っているかもしれないが、歌唱力や演技力への評価は保たれたままだ。だから、プライドを保ちながら、晩年の仕事をこなしていくことが可能となる。だが、芸人は人気を失ったとき、即座に「面白くなくなった」という評価が下る。しかも、お笑いには、観客の笑い声という明らかな指標がある。どれだけ自分を騙(だま)そうとしても、笑い声のない客席を前にしては誤魔化しが利かない。笑わせることができなくなった芸人には、逃げ道がないのである。

 芸人の晩年の生き難さは、今に始まったことではない。本書で取り上げる昭和の芸人たちは、華やかな絶頂期に登りつめた後、次第に人気が凋落していった。その後の生き方は様々だが、ハッピーリタイアができた芸人は一人もいない。そして、最期の場面は、全盛期が笑いに満ちたものであるだけに落差が大きく、多くのファンに悲哀を感じさせた。本書は、七人のお笑い芸人を取り上げ、彼らが、絶頂期から最期へ向かって、どのような晩年を生きたかを書いたものである。

 だが、本書を執筆した動機は、芸人の最期が「物語」になるからではない。それは、至極、個人的な理由である。

 時代を代表する人物が、歌手やスポーツ選手だった時代がある。美空ひばりや長嶋茂雄は、昭和のある時代を象徴する存在として、同時代の多くの人々の胸に刻まれている。さらに時代を遡(さかのぼ)れば、歌舞伎俳優がその位置を占めていた。そして、現在、その位置にいるのは、お笑い芸人だろう。一九七九年生まれの私は、自らの価値観を形成する上で、ダウンタウンの影響が圧倒的だったという自覚がある。おそらく、少し世代が上になると、ビートたけしがカリスマだろう。いずれにせよ、七〇年代以降の世代において、お笑い芸人がカルチュア・ヒーローである人は多いと思う。

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昭和芸人 七人の最期
笹山敬輔・著

定価:本体620円+税 発売日:2016年05月10日

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