東京なんか目指さない
古市 高度成長期のような希望は必要ないというお話でしたが、いま龍さんが注目している、「これはいけるんじゃないか」という小さな希望の種はありますか。
村上 具体的にはどんなものですか?
古市 『エクソダス』では、中学生たちが北海道に移住して、地域通貨や雇用を作り出し、日本から実質的に独立しました。これは決して古びた方法ではなくて、十分にあり得ると思うんです。ホンジュラスでは、チャーターシティと呼ばれる仕組みで、事実上の新しい国を作ってしまう計画が何年も前から進んでいます。日本でも、国家戦略特区というかたちで、福岡市で法人税を15パーセントにする案など、いくつかの試みがなされようとしています。日本全体は沈没していくと思いますが、単発的、局所的な希望はあると見ています。
村上 僕は、行政や国には期待していません。可能性を感じるのは、規模が小さくても、地方、地域に独自の経済圏を作る動きです。たとえば、愛媛県今治市の農協が作った、「さいさいきて屋」という会社があります。域内の加工業者ともタッグを組んで、周辺の農産物や海産物から加工品を作り、店舗や流通網も持っていて、地域の学校に給食サービスを展開したりしている。彼らは東京は目指していないですし、補助金にも期待していない。企業を誘致しても、利益の大半は本社のある大都市に移るだけですからね。
これだけ地方が疲弊している中、“お上”の象徴だった農協のような組織でも、サバイバルのために新しい発想が生まれている。そういった成功例は少ないですし、まだ本当に小さな旗が振られている状況ですけど、可能性は感じます。
古市 古い枠組みの中からでも、変革の芽は生まれるんですね。よく若者が社会を変革するんだという期待をかけられますけど、それがすごく嫌なんです。お金や人脈、権力を持っているのは圧倒的に高齢者です。だから高齢者のほうが、はるかに世の中を変える力がありますよ。テロはさすがに勘弁ですけどね(笑)。
掲載文藝春秋 2015年8月号
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