書評

『ゆで卵の丸かじり』解説

文: 久住 昌之 (マンガ家・ミュージシャン)

『ゆで卵の丸かじり』 (東海林さだお 著)

 東海林さんと実際に会ったことは、たぶん二回しかない。しかも、言葉は交わしたことがないんです。

 一回は、たぶんボクが弟と組んで書いたマンガ『中学生日記』で(※現在扶桑社文庫)第四十五回文藝春秋漫画賞をもらった授賞式かその二次会かなんか。'99年(東海林さんは'70年に同賞第十六回を受賞されている)。

 もう一回は、一緒にアフリカに行った仲間の結婚披露パーティの会場で。東海林さんはその仲間と、ボクより数年前にケニアに行っているようだった。

 その頃はもう東海林さんを「オヤジ臭い」なんて微塵も思っていず、大尊敬してたので一メートルぐらいまで近づいて、顔も合って、目も合ったんだけど、何話していいかわからず、それにちょっと(つまんないこと話しかけんじゃないぞ)的なコワイ視線も感じた(気のせいか)ので、半端な笑い顔で会釈だけした(日本人の意味不明なニヤニヤ笑いだったきっと)。いや、会釈にもなっていなかったかもしれない。(なんだ、ヘラヘラしやがって。言いたいことあったら言え)的な思いをされたかもしれない。すいません。ちゃんと大きな声で「クスミです。文春漫画賞ではお世話になりました」と言え、オレ。

 今回、これを書くにあたって、久しぶりに丸かじりを読んだ。恐る恐る読んだ。

 そしたら、しょっぱなで「ラーメンに海苔は必要か」で、「邪魔」と書いていてさらに「迷惑」を上乗せしているのが、面白くて、しかしボクとは少し違う意見で、ホッとした。ボクは、チャーシューメンの肉を「邪魔」と思うほどには、海苔は邪魔ではない。

 でも最近のラーメンの横浜家系?かなんかで三、四まいの海苔を、ドンブリの縁にトランプのババ抜きの持ち方の如く重ね開いて最後に挟み入れて、出すやつ、あれはキライ。ウザイ。ほんと、邪魔。ハッタリにしか見えない。声ばっかりデカイゾロゾロいる店員たちが頭に巻いてる、お揃いの黒いバンダナと一緒。

 でも、ナルトとホウレン草とともに小さな海苔がのっているのなら、なんか昔っぽくて、ボクは少し安心する。海苔がスープでビトビトでもオッケー。途中ちょっと溶けても大丈夫。そんなに海苔が大事ではないけど、海苔の香りも一瞬なら楽しい。

 でもその項は一行たりとも無駄なく面白い。文句なく面白いけど、自分とは少し違う角度だったことにひと安心して、この本を全部読むことができた。

 イチゴも面白かったし、ゆで卵の一口食いには「今度絶対やろう」と思ったし、「ニッチャリ」にはさすがというしかなかったし、トコロ天のペシミズムの力技にはうならされて最後に度肝を抜かれた。トコロ天に冷たい味噌汁!しかもそれが二重丸!?

「やられた」と思ったのはこれから暑くなるから食べるであろうかき氷。スイカも。面白くて、言われてみればまさにその通り、その上で食べたくて食べたくてたまらなくなる。スイカのシャクシャクのちゴックン、は出ません。もう当分スイカを食べる話を書けない。と思っていたらポップコーンを「くべる」と来た。もうお手上げですね。サイコー。くべてるくべてる、映画館でみんなくべています。

 もう大丈夫だろうか。規定の枚数は埋まっただろうか。そういうわけで、皆さん、東海林さんの丸かじりシリーズの新作を、東海林さんと同じ時代に生きて読めるシアワセを存分に味わってください。

 以上です。解説になっていなくて、失礼しました。これが限界です。では失礼します。

ゆで卵の丸かじり
東海林さだお・著

定価:本体530円+税 発売日:2014年07月10日

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