2005.06.20 インタビューほか

『下町』が育む時代小説

「本の話」編集部

『赤絵の桜』 (山本一力 著)

――損料屋の喜八郎を主人公にした作品の単行本化は、二作目になりますね。今回も面白くて、最後まで一気に読んでしまいました。そもそも札差の物語を書こうと思われたのはなぜなのですか。

山本 たまたまある雑誌で、寛政時代のバブル経済のことを調べて書いたんです。そのとき札差というのは非常に面白い人たちだというのが分かって。あまり生態は知られていないから、彼らを主人公にした江戸時代の経済小説が書けたらいいなと思ったの。

――オール讀物新人賞受賞後、第一作にあたりますね。

山本 受賞後、一年間は何を書いても報われなくてね、ちょうど一年目に第一稿が始まりました。生涯にただ一度だよね。受賞後、第一作というのは。でも、そこから日の目を見るまでは、また一年ぐらいかかっています。最終的に十一稿ぐらい出したと思うんだ。

――十一度目の正直ですか!

山本 最初は六十枚だったのを、編集者に言い足りていないからもっと増やせと言われて八十枚にし、まだ足りないと百二十枚にし、「これで面白くなった」と言われOKかと思ったら、今度は「はい、そこから削りましょう」って(笑)。削っては出し、削っては出しで、一年たったときに、ようやくゲラにすることになったの。これはもうほんとうれしかった。そのときに編集者からもらった“合格メール”は、今でも日記に貼ってありますよ。新作の『赤絵の桜』も何度も書き直しています。これも三割増しぐらいの分量の原稿を書いてるはずですよ(笑)。

――時間をかけて、大事に育んできたシリーズなんですね。

山本 ええ。時間がかかったからこそ、キャラクターの細かいディテールをきっちりと決めていくことができたと思います。

――登場人物すべてのキャラクターが、とても丁寧に書かれていますよね。とくに主人公の喜八郎は、かっこいい!

山本 喜八郎というのは私にとっては小説家としての原点でもあるし、すごく好きなキャラクターですね。ただ、あんまりスーパー・ヒーローを作ってもしょうがないから、等身大でありながら、粋な男を描きたいという思いがありました。

――喜八郎のモデルはいるんですか。

山本 今までにいろいろなセールスの仕事をやってきましたので、取引先の担当者とか上司とか、いろんな人が一緒になって出来上がっていったのが喜八郎のモデルです。

――脇を固める人たちも、味があって魅力的ですね。

山本 ありがとうございます。とくに私は、北町奉行所の秋山さんが好きでね。この人は私の旅行会社時代の先輩がモデルなんです。

――侠気のあるいい男ですね。

山本 その先輩も、めちゃくちゃいい男でしたよ。何かをしてやるといった押しつけがましさはないんだけど、大事なところではフッと力を貸してくれました。私に池波正太郎さんの面白さを教えてくれたのも彼なんです。

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赤絵の桜
山本一力・著

定価:本体505円+税 発売日:2008年06月10日

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