人柄に惹かれ、「この人が伊三次を書いているんだな」と感激
一時期はご病気が大変だったけれど元気になられたと編集者から聞いて、今年の5月くらいだったかな、電話したんだ。いつも通りの声で、楽しそうに話してくれたから、てっきり大丈夫、治ったんだろうと信じていたんだよ。うえざっちらしい心遣いだったんだろうね。バカだね、おれも。彼女は闘病生活を続けながら、最後まで書き続けていたんだね。
はじめて会ったのは2000年の文藝春秋の忘年会のときだった。おれは97年にオールの新人賞をいただいて99年に受賞後第一作が掲載されたばかりの新人。忘年会に行ったって、知り合いなんてほとんどいない。そろそろ帰ろうかなって思っていたら、文春の編集者が「宇江佐さんがいらしてるから、お話しになりませんか」と声をかけてくれた。彼女はオールの新人賞では二期先輩だけれど、すでに実績では比較にならない存在、伊三次のシリーズは受賞号からずっと読んでいる愛読者だった。お会いしたら、すでに貫禄たっぷりだったけど(笑)、話が面白くて、そのときの日記に「会えてうれしかった」と書いたほどだった。
2002年に直木賞に届いたときに小説誌で対談をしたのが、仲良くなるきっかけ。深川から浅草まで歩きながら、小説のことや家族のことを話して、そのときに彼女の人柄に惹かれ、「ああ、この人が伊三次を書いているんだな」と感激したのを覚えている。一気に距離が縮まった気がしたんだね。
それからは普段着の付き合い。おれにとって気軽に電話で話せる唯一の作家といってもいいかもしれない。これといった話はしないんだけど、お互いの家族や仕事の話なんかをこっちがかけることもあれば、向こうからかかってくることもあった。
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