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『下町』が育む時代小説

『下町』が育む時代小説

「本の話」編集部

『赤絵の桜』 (山本一力 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #歴史・時代小説

――料亭の女将である秀弥(ひでや)も、山本作品ではおなじみですよね。理想の女性像なんですか。

山本 女性に関しては、実際、人に自慢できないことばっかりやってきたから、あんまり言えないんだけど(笑)。喜八郎と秀弥の恋を描くときに、一番大事にしようと考えたのは、簡単にお互いが添い遂げられないようなはがゆさ。今の時代は何事もお手軽でしょう。本来、恋愛っていうのは、神様からの賜物みたいな、生きていくうえで最も心弾むことだよね。それが生きる原動力になるはずなのに、今は男と女をゲームのように組み合わせてしまう。合コンだの出会い系だのと。人との出会いをあんなにお手軽なことしちゃいけないよなあ。そういう出会いは絶対間違っていると思って、アンチテーゼのつもりで二人の恋を書いた。お手軽な恋愛に身を投じている人たちも、一方では、なかなか添い遂げられない、まことの恋に憧れを持っているみたいですよ。喜八郎と秀弥のことも、熱い気持ちで見守ってくれている読者が多いんです。

――二人がどうなるのか、ワクワクしながら読みました。

山本 私自身もどうなるか分かんないもんなあ(笑)。

――担当の編集者もきっと好きなキャラクターとかが……。

山本 うん、あります。今の担当の女性はね、札差の米屋政八(よねやせいはち)が好きなんだ。政八が間抜けなことをやると喜ぶんです(笑)。

――たしかに、政八は何をやらかすか気が気でない。

山本 政八を書くときは自分がやっぱり政八になりきっているんです。それで、やりたくもないみっともないことをやっちゃうわけだけど、登場人物と一緒になって動いているのは楽しいわね。

――いろんなキャラクターになって書かれているんですね。

山本 うん。伊勢屋四郎左衛門(いせやしろうざえもん)が自分ではどんどん好きになりましてね。最初はほんとに嫌なやつで、嫌なやつをギャフンと言わせたくて書いたようなものなんです(笑)。だから、最後に思いっきり伊勢屋を突き放してやろうと思ったんですが、だんだん伊勢屋に惚れこんじゃってね。結局、ほら、人物の器が大きいから嫌われるようなこともするわけでしょう。人には強面(こわもて)で通っているけれど、でも、そうじゃないやさしい部分もある。ただ、いいことをしているのを人に話すのはみっともないことだと思っている。魅力のある男ですよ。だから私も物語が進むうちに、だんだん伊勢屋の違う一面も垣間見えるように書いています。

――この作品には、本当のワルが出てこないんですよね。たぶんそれは伊勢屋のように、人物を多面的に描いているからなんですね。

山本 そうでしょうね。片一方だけっていうのは浅くなってしまうよね。嫌なやつはほんとに嫌なやつなんだけども、でも、それだけで終わったら納得しきれないよね。人間はそんな簡単な生き物じゃない。

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赤絵の桜
山本一力・著

定価:本体505円+税 発売日:2008年06月10日

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