『ボーン・コレクター』
(一九九七年/一九九九年)文春1/「このミス」2
――おまえはたちまち骨だけになってくれそうだな。

リンカーン・ライム&アメリア・サックス・チームの初陣となった相手は未詳八二三号ことボーン・コレクターだ。事件の発端は男女の誘拐事件である。そのうち男性の遺体が土に埋まった状態で発見される。生き埋めにされて殺されたのだ。遺体の指には女性の指輪が嵌められていた。サイズの小さな指輪を嵌めるため、骨が剥き出しになるまで皮膚は削がれていた。
未詳八二三号は、犠牲者の周囲に次の犯行現場と殺害の手口を暗示する物を置いていくという、大胆不敵な連続殺人犯である。第二章で彼は読者の前に姿を現す。「一八〇〇年代初頭に建てられた、大理石をふんだんに使った連邦様式の老朽家屋」をアジトとし、『古いニューヨークの犯罪』という古書を愛読する。ボーン・コレクターとはその中に登場する、骨を偏愛する殺人者の通称でもある。現場の遺留品や命を取りとめた被害者の証言などからライムは、「初歩的なドイツ語の知識あり」「被害者を縛った縄の結び方が特殊」「アフターシェーブローション」などといった犯人の特徴を抽出していく。並行してボーン・コレクター自身の登場場面が描かれているため読者は、ライムの中で次第に像を結びつつある犯人の姿がいつ実体と重なるのか、という関心を持ちながらページを繰り続けることになるのだ。
ボーン・コレクターは、探偵の存在を前提とし、それに対して挑戦状を送りつけることを喜びと感じる、天才犯罪者の典型である。この対決を描くことによって作者は、リンカーン・ライム・シリーズが「探偵対犯罪者」の伝統的な闘争物語を現代版に変奏して再起動させるものであることを高らかに宣言したのであった。