- 2015.11.25
- 書評
全悪人怪人大百科 リンカーン・ライム編
文:杉江 松恋 (書評家)
『バーニング・ワイヤー』 (ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
『魔術師(イリュージョニスト)』
(二〇〇三年/二〇〇四年)文春3/「このミス」2
――こんにちは、我が敬愛なる紳士淑女の皆さま。ようこそ。ようこそ、私どものショーへ。
今回の敵・イリュージョニストの口上で物語は幕を開ける。音楽学校の中で女性の命を奪った犯人は、完全に包囲されている建物の中から姿を消し去った。その鮮やかな技を、イリュージョニストはハリー・フーディニの脱出マジックになぞらえて〈手持ち無沙汰の絞首刑執行人〉と呼ぶ。続いての犯罪は〈血の偶像〉、あるいは〈破壊される娘〉。殺害後に遺体をのこぎりで切断して見せた。そこが大勢の観客が詰めかけた舞台ででもあるかのように、イリュージョニストは犯行のショーアップにこだわり、かつ自らの内的独白としてトリックとその意義について解説を加えることを好む。対抗措置としてライムは、プロのマジシャンに助言を頼むのだ。
いわゆるプロテウスマジック(早変わり)、人形を用いてのトリックなど、ライムの敵の中でも最も手数の多かったのがこのイリュージョニストだろう。しかしそれらの技よりも気をつけなければならないのは、観客の注意を引きつけて間違った方向へと逸らす誤導のテクニックである。読者の前ではマレリックと名乗るイリュージョニストの正体は比較的早めに判明するが、それだけでは事件は解決できない。彼の仕掛けた誤導の歪みを排除した後に残る真の狙いが何かを見極めなければならないのである。解説で法月綸太郎が指摘するように第一部が『ボーン・コレクター』の如き警察を翻弄する連続殺人(同書のクライマックスを思わせる、探偵と犯罪者との直接対決もちゃんと再現される)、第二部が『コフィン・ダンサー』のような一進一退の攻防戦と、一冊の中にシリーズの最良の部分が濃縮されたような作品である。特に後者では複数の人間の思惑を操って意のままに動かすという、悪魔的な技の冴えが見られる。
-
“怪人対名探偵”、現代によみがえる
2012.10.18書評 -
危険な「魔術師(イリュージョニスト)」
2004.10.20書評 -
極上のスリルを愉しもう
2013.11.08書評 -
『ポーカー・レッスン』解説
2013.09.06書評 -
どんでん返しの魔術師、007を描く
2014.11.19書評
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。