お互いにお互いの命を譲り合える
――第一部の舞台は小笠原、アメリカ、上海と交互に移りますが、第二部では桑港(サンフランシスコ)を中心に物語が進みます。
妻をデューク・サントス一味に殺されたリバティ・ジョーという男の仇討ちに、丈二と子温が思いがけず関わっていく。仇討ちというのは日本人が好きなテーマであるけれど、アメリカ人にとってもそれは同じ。西部劇の最大のテーマが、悪党どもをいかに縛り首にして成敗するかだからね。その点については、ありふれた処刑にはしたくないからずいぶん頭をひねった末、ラストを思いついたのは、やはりアメリカ滞在中。コネチカット州のニューロンドンだったのをよく覚えている。
――主人公の兄弟は、実は山本さんご自身の息子さんたちがモデルとか?
まさにその通りで、二人の姿を思い浮かべながら書いていたわけだけど、兄弟っていうのはバディ(相棒)であることが絶対に大事なんだ。バディというのは、兄弟だけじゃなくて男と男でも、男と女でも自分の命を預けられる間柄。主君と家臣に置き換えてもいいし、日本人古来の考え方にも通じるものがあるよね。「お前のためなら死ねる」という漫画『愛と誠』の台詞じゃないけれど、究極の信頼があってこそ。丈二と子温もそうだし、リバティ・ジョーも先に妻のメリーアンを殺されたけれど、この小説の登場人物たちは命の危機にあっても、お互いにお互いの命を譲り合える人間であることを書きながらずっと自分で確信していた。
今の時代は色んなことがお手軽だし、特に若い世代というのは、自分の経験をもっても斜に構えることを是として尖っている。そういうところへどんな説教を垂れても絶対に届かない。それよりも高倉健さんの任侠伝や網走物がそうであったように、憬れられる存在を出すことで何か理解できる隙間が生まれるものなんだ。長年、愛読してきた池波正太郎さんの『男の作法』ものにも、いっぱい格好いい大人が出てきて、自分の見本にしたいと思う人物が山ほどいた。最近はそうしたサンプルが少なくなっているけれど、それを嘆くのではなく、自ら書く人物たちを憬れられる存在にしていきたい。こうした想いを存分に託したのが『桑港特急』といえるだろう。
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