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前サザビーズジャパン社長がきびきび語る本物のオークションの舞台裏。ヤフオクにはない逸話の連続!

前サザビーズジャパン社長がきびきび語る本物のオークションの舞台裏。ヤフオクにはない逸話の連続!

文:門井 慶喜

『巨大アートビジネスの裏側 誰がムンクの「叫び」を96億円で落札したのか』 (石坂泰章 著)


ジャンル : #ノンフィクション

 ……などと知ったふうに紹介できるのも、本書の臨場感がたっぷりだから。著者はかつてサザビーズジャパン代表取締役社長だった上に文章がうまく、「三割値切ることのできる作品は、売るときに三割値切られる作品でもある」などと箴言もたくみ。私たち読者はあたかも彼といっしょに会場にあって、安心して売買に手を出している気になるのだった。

 しかしもちろん、オークションはサザビーズの仕事のほんの一部にすぎない。

 ライバルであるクリスティーズも同様だが、それ以前に、彼らは徹底的に絵をしらべる。サイズ、素材、過去の所蔵者名、展示歴……。まちがっても贋物や疑問品をあつかうわけにはいかないからだ。

 この本では「身体検査」と呼ばれているが、しかしその身体検査のさらに前に、そもそも絵を売ってもらわなければ話にならない。すべてはそこからはじまるのだ。

 このため担当者はいろいろ手をつくして所蔵者の信頼を得るのだが、その努力っぷりは、いっそ「営業」と呼びたい涙ぐましさ。庶民と無縁のように見えるアートビジネスの世界でも、結局は、そこにいるのは人間なのだ。

 この本には、ほかにも無数の情報がある。

 ムンクが高くてモネが安い理由。近年台頭のいちじるしいアジア人コレクターの動向。ネットの時代の顧客の変化。作品購入のさいの注意点。こういう豪勢きわまる話がたった一冊で、千円もかからず手に入る。現代日本の読者はしあわせだなあと私はつくづく思うのですが、どうですか。

石坂泰章(いしざかやすあき)

石坂泰章

1956年、東京都生まれ。(株)AKI ISHIZAKA代表取締役社長。東京藝術大学非常勤講師。2005~14年サザビーズジャパン代表取締役社長。数々の大型取引を手掛ける。幼少期は日、米、英、独で育つ。80年成蹊大学法学部卒、80~87年三菱商事勤務。87~2005年20世紀美術の画廊を経営。現在はアート業界30年の経験を活かし、美術館、個人、企業にコレクション形成、展覧会企画を中心にアドバイスしている。著書に『サザビーズ 「豊かさ」を「幸せ」に変えるアートな仕事術』(講談社、2009年)がある。


門井慶喜(かどいよしのぶ)

門井慶喜

1971年生まれ。2003年「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。著書に『天才たちの値段』『天才までの距離』『悪血』『ホテル・コンシェルジュ』(以上、文春文庫)、『注文の多い美術館 美術探偵・神永美有』(文藝春秋)、『東京帝大叡古教授』(小学館、第153回直木賞候補作)など多数。2016年、『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)受賞。

 

巨大アートビジネスの裏側 誰がムンクの「叫び」を96億円で落札したのか
石坂泰章・著

定価:本体830円+税 発売日:2016年05月20日

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