インタビューほか

若き松本賞作家が生み出す前代未聞の和風ファンタジー、最新作刊行でシリーズ18万部突破!

「本の話」編集部

『空棺の烏』 (阿部智里 著)

舞台は、山神によって開かれたと伝えられる世界「山内」。登場するのは、通常は人の姿で暮らすが、鳥の姿に転身して空を飛ぶことができる八咫烏(やたがらす)たち。朝廷に君臨する日嗣の御子と彼を守る武家の少年、貴族達の華麗な権力争いをテンポよく描き読者を魅了する阿部智里さんのデビュー作「八咫烏」シリーズ。この夏、4巻目の『空棺の烏』を刊行、累計18万部の人気シリーズに成長した。

小説家以外の職につくことは考えたことがない

――お后の座をめぐって争う貴族の姫君たちの美しい装束、華麗な王朝内部のしきたりの描写が圧倒的に楽しかった1巻から、今回舞台となった上級武官養成所の仕組み、試験制度の呼び名まで、阿部さんの作り上げるファンタジー世界は、細部まで行き届いた描写と考え抜かれた構造で説得力がありますね。

阿部 今回は、護衛隊組織「山内衆」を育てるための厳しい訓練学校「勁草院」の内部の描写にこだわりました。例えば最初は「入学」「卒業」という言葉を普通に使っていたのですが、なんだか物語世界にそぐわない。「入院」だと病院に入るみたいだし……悩んで結局、「入峰(にゅうぶ)」「峰入り」という言葉を使わせてもらいました。さらに、1年生、2年生、最上級の3年生、という言葉も、どうも現代っぽくなってしまう。そこで、中国古典をもじった「荳兒」「草牙」「貞木」という言葉を当てはめて……こういう箇所はこだわったほうがいいだろうと、締め切りのギリギリまで考えて仕上げました。

 絵画的イメージで生まれた物語の細部を、そうやって論理的に考えて勉強して探して書いていくんです。

 ファンタジーって、「全部作者が想像して書けばいいんだから簡単でしょ」って言われる方もいるんですけど、知識のない状態で書いたファンタジーは、ただの妄想になってしまう。全部を自分が作った用語で表現することも出来なくはないでしょうが、そうやって創作した世界に読者を引っ張り込むのは非常に難しい。この「八咫烏」シリーズが多くの方に受け入れられているのは、実際にあった装束やしきたり、文化をベースにしているからだと思うんです。適度に自分の作った用語を使いながらも、ある程度は一般的な用語を選ぶ。多くの人が楽しめるファンタジーの条件は「基本となる概念を読者と共有していること」なのではないでしょうか。だからこそ、ファンタジーを書くことを志す者こそ、歴史を学ばなければならないと私は考えています。

――現在、早稲田大学大学院で東洋史、東アジアの歴史について勉強されていますね。

阿部 大学に入ったのも大学院に進学したのも、すべては小説を書くためです。小説家という職業を知って以後、小説家以外の職業を考えたことは人生で一度もありません。なれなかったら、というか、プロデビューがなかなか出来なかった場合にどうやって暮らすか、デビューまでの日銭を何で稼ごうか、というのはちょっと考えました(笑)。それでも、アルバイトで経験した書店員さんくらいしか思いつきませんでしたね……結局、就職活動が本格的に始まる前にデビュー出来たので、真剣に検討するタイミングはなかったのですが、これは非常に幸運だったと思っています。自分は要領が悪いので、多分、小説家以外だと働き手としては役に立てないんじゃないかな(笑)。

――まだ23歳。読者はこれからも、阿部さんの生み出す壮大なファンタジーをたくさん楽しめそうですね。

阿部 この八咫烏シリーズは、全部で6巻になる予定です。

 今後も新しい巻が出る度に、前の巻を読み返すと「あ、これはそういう意味だったのか」という伏線に気付いてもらえるはずです。そうすると、読了済みの本でも以前と全く違う面が見えてくる……そんな風に楽しんでもらえたらいいな、と思って書いています。

 あと二つ、死ぬまでに書きたいシリーズがあるんです。一つはかなり具体的なところまで詰めていますが、もう一つは、書けるかどうか……勉強の量も時間も、どれくらいかかるか分かりません。でも一生かけて書き進めたい。来年大学院を卒業したら、専業作家になります!

空棺の烏
阿部智里・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2015年07月29日

詳しい内容はこちら

黄金の烏
阿部智里・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2014年07月23日

詳しい内容はこちら

烏は主を選ばない
阿部智里・著

定価:本体670円+税 発売日:2015年06月10日

詳しい内容はこちら

烏に単は似合わない
阿部智里・著

定価:670円+税 発売日:2014年06月10日

詳しい内容はこちら



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