黒澤組に戻ろうとした三船敏郎
田草川 『デルス・ウザーラ』や『乱』のときのようなサポート体制があれば、ハリウッドともうまく仕事ができたという可能性はありませんか。ハリウッドはもっと厳しいですか。
野上 もっと厳しいと思いますね。ハリウッドの合理的システムは黒澤さんには合いません。ロシアなんかまだ日本的だったから、良かったんですけど。
田草川 『乱』の場合はどうですか。
野上 『乱』では全部が日本のスタッフですから、プロデューサーのセルジュ・シルベルマンが悪役になってくれたんです。『デルス』のときは、現場にいる日本人は三人か四人。言葉が通じる日本人が朝から晩まで怒鳴られてました。でも、黒澤さんは怒鳴ることで自分をエキサイトさせていくという面があるのです。あのエネルギーはすごい。
田草川 それで自分を鼓舞しているんでしょうね。『トラ・トラ・トラ!』では、チーフ助監督の大澤豊さんが怒鳴られ役でした。そういうときに口答えなどすると大変なことになるんですか。
野上 あ、口答えいけませんねえ(笑)。
田草川 僕はアウトサイダーだし、弟子でもないからそういうことはありませんでしたけど、怒られてた大澤さんからは、「田草川さんはいいな」って言われましたね(笑)。現場で監督の怒りを受け止める役回りの人は、必ず誰かいるという感じですか。
野上 いますね。特に俳優さん。『トラ・トラ・トラ!』のときは、素人の方でもずいぶん怒鳴られた方がいたと聞いてますが、素人を使うならば時間がいる。イランのアッバス・キアロスタミも台湾の侯孝賢も素人を使っています。一回きりの素材として使うわけですけど、そのかわり時間はかけてますよ。
田草川 いま野上さんのおっしゃったことは、エルモの持論とまったく同じですね。すべての原因は配役にあったと。
素人俳優の起用というのは、現場からみたらたいへん危険なことで、三船敏郎さんもこれを批判されていました。
野上 だから三船さんは黒澤さんの解任劇の後、黒澤組に戻って黒澤さんを助けたいと思ったんじゃないですか。黒澤さんが監督する条件を呑むなら、三船プロが三船敏郎主演で全面的にバックアップすると、フォックスに持ちかけました。つまり、黒澤・三船コンビが戻ることに対して、三船さんは最後の希望を持っていたのかもしれない。しかしこの案は成立しなかった。
田草川 ダリルも、もし黒澤がだめなら三船をとれ、そうしないと日本側の目玉がなくなる、と考えたようですね。黒澤さんと三船さんの関係は、どこからだめになっちゃったのか、いまだによくわからない。
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