安倍は一二年九月の総裁選で、石破茂らを破り、総裁に復帰した。この総裁選の党員票で、石破が過半数を上回る一六五票を獲得した。党員票と国会議員票を合わせた一回目の投票で安倍は二位に滑り込み、国会議員だけで行われた上位二人による決選投票で安倍は一〇八票で、八九票にとどまった石破を退けた。
安倍は党員投票で敗北し、国会議員投票で勝利した。小泉のように党員に選ばれたわけではない。このために、世話になった国会議員に対する配慮が欠かせなくなった。どの政党でも、どの会社、組織でも、トップになった時のプロセスがトップ就任後の運営を左右する。
飯島が選ばれ方とは別に、「官邸主導」の装置として強調している、もう一つの装置は連絡室参事官(通称「特命チーム」)を重用したことだ。このように機能していたことは私も本書で初めて知った。
首相官邸では通常、財務、外務、経産、警察の省庁から派遣された首相秘書官が政策調整の軸となる。しかし、小泉政権では秘書官を出していない省庁に幹部を派遣するよう要請した。総務省、厚生労働省、防衛庁、国土交通省、文部科学・農水省から派遣された五人を首相秘書官並みに扱った。
官邸は霞が関の司令塔だ。首相秘書官が時の首相と相談しながら、首相の意向を各省庁に伝える。その枠に入らない省庁は首相秘書官のスクリーンを通して首相の意向を知る。他省庁は首相秘書官を出そうとするが、首相秘書官を出している省庁は他の省庁の進出を防ごうとする。
そこで、飯島は首相秘書官を増やさず、参事官を置き、首相秘書官並みに扱うことにした。例えば、外務省の抵抗を受けながらも、参事官を首相の外国訪問に同行させたり、官邸の重要会議に出席させたりして参事官を取り立てた。
「連絡室参事官は組織上は内閣総務官室に所属する内閣官房内閣参事官であるが、実態は総理に直属し、秘書官と同等の仕事をやってもらっていた」
「私を含め五人の総理秘書官と五人の参事官は文字通り一つのチームになり、総理を支え、官邸内の危機管理において重要な機能を果たしてきた」
これが飯島が指摘する官邸主導の要諦である。安倍政権ではこの形を取らず、安倍、官房長官・菅義偉、三人の官房副長官、首席秘書官・今井尚哉(経産省出身)の六人による「正副長官会議」をほぼ連日、開いて意思疎通を図り、政権を運営している。
近年、多岐にわたる、複雑な問題が起き、首相だけしっかりしていれば政権を動かせる状況ではなくなっている。官邸が中心となって政権をいかに機能させるかが日本の命運を左右するようになっている。このために、小泉政権は内閣参事官を、安倍政権は正副長官会議を活用している。
どちらが正しいかは分からない。しかし、首相を支える体制がしっかりしていなければ、どこかでミスを犯し、長期政権を築くのは困難になる。
政権は機械が動かしているわけでは決してない。動かしているのはそこに集った国会議員や官僚である。それをどう機能させるか――。そのことを本書は教えている。
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