今回作中で行われるのは、一から飛行機をつくる新規開発ではなく、既存の飛行機を目的にあわせて改修するリヴィジョン(改修開発)というもの。詳しくは伏せるが、この改修は戦闘機のフォルムに大きな影響を与えるものではない。しかしそこには、素人の想像を超える多額の費用がつぎ込まれ、多大な労力が費やされる。
「改修開発は、細かく言えばたくさんあります。戦闘機でいちばん多いのは、新しい武装が使えるようにする改修。それだけでも色々とやらなくてはならないことはあって……新しいミサイルが出てくると、まずそのミサイルを搭載する箇所の物理的な設計があり、コックピットと使用するミサイルとのやりとり、いわゆる火器管制のプログラムも追加しなくてはなりませんし、さらにミサイルを積んだ状態で飛行試験をやって速度や高度、全ての飛行領域でOKであることを確認しなくてはなりません。前作『推定脅威』にも出てきましたが、少しの条件の違いで発生するフラッターという振動現象があり、それが起こってしまうと次の瞬間に構造破壊して墜落、ということもあるんですよ」
これまでこういった高度な「ものづくり」に触れてこなかった層にとって知識欲、知的好奇心を大いに刺激される内容だが、著者はまさにものづくりの現場にいる技術者たちにも、ぜひこの作品を読んでほしいという。
「私が技術者だったときに周りにいた連中は、本を読まない人が多かったんです。理由を聞くと、まずは時間がないと言われる(笑)。本当に忙しいんですよ、残業残業で。本なんか読めるか! と今も言われるんですけど、でも、この本はかつての同業者、技術者にこそ読んでほしいんです。なぜなら彼らとは、問題意識を共有しているはずだから。
日本はものづくり大国というふうに、政治家のみなさんはおっしゃいますが、たぶん、彼らはものづくりの実態はなんにも知らないんです。経済学部や法学部を出た人たち、どちらかというと人を使う立場でずっときた人に、ネジ一本の仕様がどうだこうだというものづくりの世界が分かるわけないし、分かろうともしないだろうし、そういう人たちに上から目線で『ものづくり大国ニッポン』と言われてもしらけてしまう。メーカーにつとめている社員にしても、営業や上にいる人間が自社の製品の技術的なことをよく知らないとか、日本のものづくりの空洞化はどんどん進んでいます。私はどちらかというと現場で具体的にものをつくってきた立場で書いているから、そういう人たちには共感してもらえる部分が多いと思います。自分が昔いたところで、自分が見てきたものを書いている。だからこの作品の中には取材で知っただけでは絶対に書けない一行があるはずです。技術畑の方々には、そんなところを見つけてニヤリとしてほしいですね」
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。