「相撲の杉山」として知られる元NHKアナウンサーの杉山邦博氏と、好角家としても知られる大宅賞作家の小林照幸氏が、共著『土俵の真実──杉山邦博の伝えた大相撲半世紀』刊行の経緯と内容を改めて語り合った。
小林 小学校に上がる前から杉山さんの実況に親しんできた私にとって、今回ご一緒させて頂いたのは本当に光栄でした。
杉山 こちらこそ。両国にお住まいになられるほど、大相撲がお好きな小林さんに相棒となって頂き、おおいに助けられましたよ。
小林 ただ、刊行の経緯や意義を考えると冷静にもなります。国技の礼讚を前面に出したものではありませんからね。
杉山 おっしゃる通りです。私が小林さんと初めて会ったのは、昨年の九月場所中でしたね。朝青龍問題が起きた後の九月場所二日目、私は東京相撲記者クラブの取材証を協会に没収された。取材証は四日目に返却されましたが、その後、月刊『文藝春秋』に朝青龍問題、取材証没収について寄稿する依頼を受けた。編集部の方が「小林さんなら、どういう趣旨の原稿を読みたいか」と小林さんを帯同されたのでしたね。
小林 その九月場所後に、時津風事件が発覚しました。本書では、まず朝青龍問題、取材証没収騒動、時津風事件の三つを考証する義務が課せられることになりました。
杉山 私の件はともかく、横綱の品格を問うた朝青龍問題、弟子の育成法を問うた時津風事件は大相撲の根幹を揺るがしかねない大事件でした。私は昭和二十八年の春、NHKに入局して以来、五十五年間にわたり、大相撲を現場で取材してきましたが、現在ほど難しい問題を抱えている時期はなかった、と正直感じています。だからこそ、半世紀余にわたる自分の取材歴を機軸に、現在の大相撲の抱える課題を冷静に考え、愛するゆえの提言も行おう、という気持ちで本書の執筆をお引き受けした次第でした。