- 2016.11.07
- インタビュー・対談
現実の手触りと小説の嘘――横浜をめぐって 堂場瞬一×伊東潤【前編】
「別冊文藝春秋」編集部
『横浜1963』 (伊東潤 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
昭和四〇年代の猥雑で濃厚な黄金町のにおいが立ちのぼる
堂場 削ぎ落とした文体が、この物語と当時の横浜の雰囲気にとても良くマッチしていると思いました。古き良きハードボイルドの、正統な後継者が現れたなと。
伊東 そう言っていただけると嬉しいです。今回の趣向として、過去に読んだ翻訳小説を現代によみがえらせたいという思いがありました。ですから抑制の利いた文体と、ハードボイルド小説独特のクールな感情描写に気を配りました。ただ次も同じようなわけにはいかないんで、また戦略を考えねばなりません。頭が痛いところです(笑)。
堂場 物語は横浜港で女性の全裸死体が上がるところから始まります。爪からは金髪が検出され米軍の関与が疑われる。そこで外事課の出番となり、ハーフの警察官・ソニー沢田(さわだ)が駆り出される。捜査は米軍に妨害され続け、事件は迷宮入りかと諦めた矢先、日系三世の軍人・ショーン坂口(さかぐち)の協力を取り付けることに成功する。そこからストーリーが大きく動き出すんです。実際にハーフも多かったんですか。
伊東 ええ、私の通っていた小学校は横浜の中心部にあるのですが、二百人いる学年に一人くらいはいたはずです。当時は、ハーフというだけで、いい意味でも悪い意味でも特別扱いされていた気がします。
堂場 バディを組むこの二人は、県警でも米軍でもメインストリームを行けるキャラクターではないんですよね。
伊東 ええ、それぞれのコミュニティの外縁部にいるアウトサイダーぎりぎりの人たちですね。そうした者同士が、それぞれの立場を越えてバディとなるわけです。
堂場 その辺境にいる二人が奇跡の邂逅を果たす。そこがこの小説の醍醐味だと思いました。
ただ警察小説を書いている者として、一つ疑問を持ちました。主人公のソニー沢田は、日本国籍ですが白人とのハーフです。当時の神奈川県警は、こういう人を採用していたんでしょうか。
伊東 ハーフが実際に在籍していたかどうかはわかりませんが、日本国籍なら採用に問題はなかったはずです。ただ、資料を調べてみると、当時の神奈川県警は外事課を拡大して、採用人数を大幅に増員しているんです。寮も足りなくなっていたほどです。それほど拡大しているのなら、ソニーのように、見た目が外国人で英語を話せる警察官がいても、おかしくはないと思いました。