こういう本を読んで、ああ楽しかったと思うのは、不謹慎で、おかしいかもしれません。でもなんだかそう言いたいような気がするのです。著者の中野京子さんから、彼女の素晴らしいお友達の話を詳しく聞かせていただいたような気がしたからです。考えてみれば、本当に不思議な本かもしれません。わたし自身、若い時にある人から、「キリストと個人的に親しくなりなさい」と言われたことがありました。そして、この本には中野さんと親しいキリストとその仲間たちのことが、実に自然に、流れるように話されているのです。キリストと個人的に親しくなるとはこういうことだったのか、と改めて思っています。
もしかしたら、この本の魅力の一つは、ここで使われている聖書が文語訳だということもあるかもしれません。そのために、少し、お話のような感じになるのでしょうか。とても好ましいと思います。そして、著者が、自分はクリスチャンではありません、とあとがきで断っておられますが、へえ、そうか、と思うだけで、何の違和感もないのです。というよりも、私はこんなに解りやすいキリスト伝があるだろうかと思ったのです。神学者や、哲学者には申し訳ないような気もしますが、読む人になんの矛盾もなく、実にすんなりと伝わると思うのです。そして、私にとっても、キリストが本当に親しい人なのだとあらためて思いました。
それに、このタイトル、「名画と読むイエス・キリストの物語」こそが、この本の魅力の最大の秘密ではないでしょうか。あまり考えたことがなかったのですが、わたし自身も、きっとそうだったのではないかと思います。つまり、私もいろんな絵を見ながら、キリストに親しんできたと思い当たりました。この中に、自分でも好きな絵がたくさん出てきますし、実際にこの目で見た絵もたくさん出てきます。なんと嬉しいことでしょうか。
昔、私も「ナザレの少年」というタイトルで、キリストの誕生から少年になるまでを絵本にしたことがあります。文章は、福音書のあちらこちらから必要なところをとってきて、少年になるまでのキリストの姿を追うことを第一に考えたのです。それこそがクリスマスだと思ったからです。そのあとがきに、私も、「読者がヨーロッパを旅して、いろんな絵を見るときの役に立てれば、」というようなことを書きました。不思議なことです。
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『烏の緑羽』阿部智里・著
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