インタビューほか

情けなさの品格――戌井昭人(原作者)×横浜聡子(映画監督)

「別冊文藝春秋」編集部

『俳優・亀岡拓次』 (戌井昭人 著)

パッとしない脇役俳優の愛すべき日常を描いた『俳優・亀岡拓次』がついに映画化! 小説誕生秘話から“情けなさ”の魅力、自らも脇役で出演した原作者と監督だからわかる映画撮影現場の裏話まで、大いに語りつくす。

西調布のスナックの衝撃

横浜 戌井さんは、撮影現場のすべてを観察の対象にしていますよね。そこが面白い。

戌井 (大森)立嗣さんとか横浜さんの現場に、エキストラみたいな形で行ったときにあったことを思い出しながら書いてました。

横浜 大森立嗣監督には、オープニングシーンで監督役で出ていただきました。登場人物たちも、戌井さんが実際に出会った人たちが色濃く反映されているんじゃないですか?

戌井 西調布に住んでいたときに、スナックで見たおっさんたちの印象が強烈に残っていて。すごく歌がうまくて、元グループサウンズにいたと自慢するおっさんとか。亀岡を西調布に住まわせたのも、そういう経験があったからです。

横浜 撮影前に、西調布に実際に行ってみました。

戌井 ひどいところだったでしょう(笑)。

横浜 メインの通りが一本あるだけで、あとは何もないなって(笑)。

戌井 亀岡は高速道路の近くに住んでいる設定なんですよ。

横浜 駅の北のほうですか?

戌井 そうそう、甲州街道は渡らないくらい。映画の冒頭でスナックが出てきますけど、いかにも西調布にありそうなお店でよかったな。

横浜 実はあそこは諏訪(長野)のスナックなんです。

戌井 えっ、ホントに? ああいう感じのスナックが実際に西調布にもあるんですよ。以前、都築響一さんがスナックの本を作っていたときに、「戌井君、いいスナックない?」って聞かれたんです。西調布の知り合いの店なら知ってると言ったら、じゃあ行こうとなって。そのとき初めて芥川賞の候補になっていて、選考会の次の日に取材を入れていたんですよね。もし受賞したらどうしよう、なんて余計な心配してたけど見事に落ちたんで、普通に取材に付き合いました(笑)。

横浜 まさにフィールドワーク!

戌井 あの冒頭の飲み屋は、それに匹敵する濃いスナックだなと思って。よくあんな店を見つけてきましたね。

横浜 すごく雰囲気のあるお店でした。映画では杉田かおるさんがママで、漫画家の東陽片岡さんにお客をやっていただいて。

戌井 あの寂れ具合がまさに西調布。だから東陽さんがものすごく喜んでましたよ。撮影が終わった後、「しこたまいいじゃん。杉田かおるさん、良かったでございます」ってご機嫌なメールをもらいました(笑)。

横浜 私は小説の登場人物で、三ノ輪のフィリピンクラブのベンちゃんがすごく印象に残りました。抜群に面白かったです。

戌井 映画観たとき、ベンちゃん役にすごい女優さんを見つけてきたなって驚きましたよ。上野のフィリピンパブに行くと、あんな感じの娘(こ)がたくさんいたもんなあ。話を聞くとだいたいみんな昼はお弁当屋で働いてて、子持ちだったりするんです。

横浜 ここでも戌井さんのフィールドワークが活きてる(笑)。

 オーディションでは、フィリピン人を募集しているのになぜか日本人ばかり来ちゃって(笑)。途方にくれていたら、最後に来てくれたんです。来るなりマシンガントークで喋りまくっていて、原作のベンちゃんに匹敵する面白い子に会えてよかったとホッとしました。

戌井 映画の中のフィリピンパブは、僕が実際に行ってた店と雰囲気がそっくり。頭の痛くなるような安いお酒を飲まされたなあ。何カ月か後にいったら、お店がつぶれちゃってましたけど。

横浜 あのときはベンちゃん役のメラニーさんがすごく緊張してて。撮影現場にあんなに人がいるのは初めてだったんでしょうね。でも、安田(顕)さんがすごく優しく解きほぐしてくれたんですよ。そのいい雰囲気をそのまま撮ったという感じです。

戌井 あのシーンはすごくリアルだった。ああいう客よく見かけますもん。

横浜 戌井さんにそう言っていただくと安心します。

戌井 あ、いますごく印象深い人のエピソードをまた思い出しちゃいました。映画には関係ないけど話していいですか?

横浜 何があったんですか?

『のろい男 俳優・亀岡拓次』 (戌井昭人 著)

戌井 前に衣装のおばさんで、ホントにムカつく人がいたんです。衣装合わせをしたら、プロフィールより二センチくらい僕が太ってたんですよ。そうしたら、その衣装のおばさんから「私たち数字で商売してるんだからふざけないでくれる?」って怒鳴られて。そのとき、十数年前にもCMの撮影でそのおばさんに同じ目に遭わされたことを思い出して。最初は腹が立ったけど、ある時点で「これは『亀岡』のネタになる」と思ったら逆に面白くなってきました。このエピソードは映画にはなくて『のろい男』に書いてるんですけど。

横浜 ほとんど小説に書いてあるのと同じじゃないですか。実話だったんですね。

戌井 でもばれないように名前は変えてあります。これだけ具体的だと誰だかわかっちゃうかもしれないけど(笑)。こんなエピソードの積み重ねで『亀岡拓次』が出来ているんです。

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俳優・亀岡拓次
戌井昭人・著

定価:本体680円+税 発売日:2015年11月10日

詳しい内容はこちら

のろい男 俳優・亀岡拓次
戌井昭人・著

定価:本体1,350円+税 発売日:2015年11月14日

詳しい内容はこちら

別冊文藝春秋 電子版5号(通巻321号/2016年1月号)

定価:※各書店サイトで確認してください
発売日:2015年12月18日

詳しい内容はこちら


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