もちろん小説も大好きです。先日、歴代の芥川賞直木賞受賞作家のうち、著作を二冊以上読んだ人を数えてみたら、直木賞が七十七人、芥川賞が二十一人と直木賞が圧倒的に多かったんです。そんな私が、著作をほぼ読んでいて、新しい作品が出たらすぐ買って徹夜してでも読む、という作家は実はスティーヴン・キング(笑)。キングは初期の『キャリー』『呪われた町』から最新刊の『ミスター・メルセデス』まで全て好きで、『IT』は待ちきれずに原書で読みました。キングの魅力は“過剰さ”。過剰な描写、過剰なサイドストーリー、過剰な伏線、過剰な語り、それらが遊園地の様々な遊具のように並んでいて、どれから遊ぼうかワクワクする感じなんです。でもすべて回り切れないと、かえって後ろ髪をひかれませんか。それと同じようにキングを読むと飢餓感が刺激されてもっと作品を読みたくなります。この『11/22/63』は、タイムマシンものの傑作である、ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』やケン・グリムウッドの『リプレイ』などに匹敵する出来栄えだと思います。
最初にお話ししたように、公文では読書教育も重視しており、「くもんの読書ガイド」という冊子も作っています。私が中学生向けの国語教材を作った際にも、該当の本百五十冊を全て読みました。これは、仕事で本が読めるというとても幸福な時間でした。その中で見つけたのは再読の味わいです。エミリー・ブロンテの『嵐が丘』は、十五歳の頃はヒースクリフの心情を面倒に感じてよく分かりませんでした。ところが三十年経って再読し、伏線の張り方やクライマックスへの盛り上がりに感動しました。『半七捕物帳』も再読しようと思ったのですが、大学生のときに購入した旺文社の箱入りの全集だと字が小さくて読みづらい。困りまして、一年前に買ったKindleに、まず最初に半七を入れて字を大きくして読みました。半七は言わずもがなで捕物帳の大傑作だと思います。幕末の風俗や地誌が本当に生き生きと活写されているんです。岡本綺堂は生まれが高輪で、話の舞台に弊社のある品川がよく出てきます。青山火事でも、ちょうどこの辺りまで人々が逃げ惑ってくる。そんな中、月の輪熊が現れて……という「熊の死骸」など、情景を想像するだけで興奮します。もう少し暇ができたら、小説と、江戸時代の地図を片手に街歩きをしたいと思っています。
お勧めの4冊
・『哲学・航海日誌』 (野矢茂樹 著) 中公文庫
・『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 (加藤陽子 著) 新潮文庫
・『11/22/63』 (スティーヴン・キング 著) 文春文庫
・『半七捕物帳』 (岡本綺堂 著) 光文社文庫
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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