夫婦相和し体重測定、服薬管理を実践した益軒
益軒三十九歳のとき迎えた妻、初(はつ/号は東軒)は二十二歳下で、病弱だった。夫妻は相和して養生を心がけ、余暇には箏や琵琶の演奏、旅行を楽しんだ。益軒は、妻のため薬を吟味して処方し、『用薬日記』を残している。
「琴瑟相和す」仲のよさと、益軒の実証主義の一端を示すのが、夫婦そろっての体重測定。井上忠著『貝原益軒』、山崎光夫著『老いてますます楽し』などによると、益軒は後半生に五回、自分と妻、のちには下男下女も含めて体重を記録した。
はじめは益軒五十四歳、東軒三十二歳で、それぞれ約五十三キロ、三十五キロ。その後は益軒八十二歳まで続き、益軒四十七キロ、東軒三十三キロだった。江戸前期の平均身長は男百五十五センチ、女百四十三センチとされる。ここから二人のBMIを推測すると、益軒は「標準二二」~「やせ気味二〇」。東軒は「やせ一八・五未満」。
か細い妻への愛情が、食養生や健康管理、服薬といった、現代でいう「セルフメディケーション」につながった、とみるのはちょっと乙女チックかしらん。
さて、『養生訓』は、総論(上・下)、飲食(上・下)、五官、慎病、用薬、養老の全八巻からなる。本書では、二巻ずつを一章にまとめて四章の構成とし、『養生訓』からの引用にあたる章に各コラムを掲載順に並べた。〇五年十一月号以降の連載から八十三編を選び、時事的な話題は適宜手を入れた。所属、肩書きなどは掲載当時のままとした。
寄藤文平さんによる気の利いた挿絵も、「其の○」という番号をかえて各項の末尾に添えた。連載時より少し大きくなって、より楽しんでいただけると思う。
ぜひ、最新科学に裏づけられた本書の「養生の術」をおこない、いよいよ長生して、人生の理(ことわり)と楽(たのしみ)を味わい尽くしていただければ、幸いである。
二〇一五年秋
(「まえがき」より)