刀を振るえば振るうほど
監督は、時代劇専門チャンネルを運営する日本映画放送株式会社の社長である杉田成道自らが担当している。テレビドラマ『北の国から』などで知られる杉田の演出は、とにかく粘り強い。一つのシーンを撮る際、通常はカットを割りながら撮るのだが、杉田はそうしない。そのシーンの頭から最後まで撮ると、今度はアングルを変えてまた頭から最後まで撮る。そして、編集段階でそれを自在に切って繋いでいくのだ。
この方法の場合、映像素材が数多く手に入るため編集の際の選択肢は増えるが、その分、俳優たちへの負担は大きくなる。何度も同じシーンの長い本番をこなさなければならないからだ。今回も、たとえ八十二歳の仲代相手でも杉田は妥協することはなく、撮影は連日朝早くから夜遅くまでかかった。
それでも仲代は弱音一つ吐くことはなく、また体力的な限界を表向きは決して見せることもなかった。むしろ、厳しい場面や夜遅い撮影といった困難な局面になればなるほど、その演技には鋭さが増しているようにすら筆者の目には映っていた。作品を良くするためなら我が身は厭わない。それこそが、仲代の役者魂の根幹なのだと実感できた。
特に圧巻だったのは十二日の撮影だ。この日、仲代扮する佐之助が「過去の悲劇と向き合うために、一心不乱に刀を振る」という場面が朝早くから撮られることになる。撮影所近くにある山間(やまあい)の「酵素」と呼ばれる場所でロケは行われたのだが、この日は猛烈な炎天下だった。しかも、近辺には日蔭が全くない。撮影期間も終盤を迎えて疲労も蓄積しているであろう八十二歳には、酷な現場に思えた。
そんな中、撮影は始まった。まずは、殺陣師と抜刀や構えの確認から。久しぶりの時代劇でも、さすがに若い頃の鍛え方が違う。殺陣師からほとんど指導を受けることなく自在に刀を操り、その構えの重さ、振りの鋭さは間近で見ていて惚れ惚れする迫力があった。
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