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革命のはらわたを探りあてた!? 粘膜作家が振り返る暗黒時代

『粘膜黙示録』 (飴村行 著)

デビュー作『粘膜人間』をはじめとする「粘膜シリーズ」で、一部読者から熱狂的な支持を受ける作家、飴村行。彼が大学を中退してからホラー小説大賞を受賞するまでには、聞くものすべてを驚愕、のち爆笑させる暗黒の「派遣工時代」があった。 まるで現代の『蟹工船』のような日々を綴ったエッセイ集『粘膜黙示録』(2月10日発売)より、その一部を公開。ひがみ根性満載の飴村節をお楽しみください。

 その夜の『革命』体験を境に僕の創作意欲は急速に減少していき、一年後には完全に消滅してしまう。そしてそこを起点として僕の人生は無数の暗色に彩られた派遣工時代へと突入し、筆舌に尽くしがたい生き地獄を体験することになる。

 あれから十六年が経った。僕は今でも、暇を見つけては大宮に出向き、当時の思い出の場所を散策することを趣味の一つにしている。あの近所のビデオ屋は数年前に店じまいし、今ではサイクルショップになっている。僕が『革命』を幻視した煙草屋と、その店先のベンチは健在で、訪れると必ず腰掛けて当時の余韻を味わう。

 つい数日前も時間ができたので一か月振りに大宮に行き、旧宅周辺をぶらぶらして帰って来たのだが、帰路の電車の中で偶然興味深い話を聞いた。混んでいたのでドアの右側に寄り掛かっていると、ちょうど真後ろに若い男女が立っていて、ずっと談笑していた。聞くともなしに話を聞いていると、二人は大宮出身の大学生で、それぞれ都内の超有名私立大に通っており、同窓であった中学校時代の同級生の現在について情報交換をしていた。

 しばらくして男性が思い出したようにあるニックネームを言い「今何やってるか知ってる?」と訊いた。女性は「知ってる知ってる」と興奮気味に連呼した後、いかにも平成生まれらしいアニメキャラのような女子の名前をフルネームで言い、「あの子、東京でモデルやってるんだよ」と、秘密を告白するというより、密かにバラすような口調で言った。それを聞いた男性は感嘆の声を上げ、続けて納得したように「やっぱりそうか」と呟き、こう続けたのだ。

「この前駅の本屋で偶然会ったんだけど、あり得ない位の美人になっててびっくりした。あのレベルの女が大宮にいると、びびっちゃって声掛けられなかった」と。

 僕は思わず(あっ!)と胸中で叫んだ。

 あの『東京の女』の残像が脳裏に蘇り、「この前観たじゃん」という艶めかしい声が耳の奥で響いた。「そうか……」僕は思わず呟いた。あの女もそっちのパターンだったのかも、と生まれて初めて思った。大宮出身だと仮定すれば毎週『里帰り』したついでに、地元の彼とあのビデオ屋にも通えたはずだ。

 あいつ、大宮の女だったのか……。そう思った途端、強張っていた体からすっと力が抜けるような感覚に襲われた。そしてもし十六年前のあの夜、そのような認識があったとしたら、あの『大宮革命』は起きただろうか? と自問した。明確な答えは今もって出ていないが、『革命』が『暴動』で終わっていた可能性は極めて高い、というのが熟考した末の僕の推察である。


第2回「男のプライド」以降は、2月10日発売の『粘膜黙示録』(文春文庫)でお楽しみください。

なお、この第1回「革命前夜」の内容はWEB上の掲載にあたり、改行などに手を加えてあります。

粘膜黙示録
飴村行・著

定価:本体650円+税 発売日:2016年02月10日

詳しい内容はこちら


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