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映画に憑かれた男たちの「狂気と侠気」の物語

映画に憑かれた男たちの「狂気と侠気」の物語

「本の話」編集部

『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』 (春日太一 著)


ジャンル : #ノンフィクション

「狂気と侠気」の物語

水道橋 新幹線の中で井筒監督に会ったときに「監督、『あかんやつら』っていう、東映京都のことを書いた大傑作があるんですよ」って伝えたことがあるんです。そしたら監督、「せやけど、俊藤(浩滋)のことは書いてへんやろ!」と言うから、「書いてます」「どう書いてんねん」「ちゃんと元々はヤクザだったって書いてます!」って。俺は新幹線のグリーン車の中なのに何を大声で言ってんだって。

会場は大盛況。左に著者・春日太一、右に水道橋博士

春日 ハハハ。

水道橋 だから『あかんやつら』は映画に憑かれた男たちの物語でもあるんだけど、それは「狂気と侠気」の物語だとも言えると思う。その意味で一番不思議というか、気になるのは最も「狂気と侠気」を見せつける岡田茂(東映名誉会長)に直接話を聞いていない、というところ。「鬼の岡田」の章を含め岡田茂のことはたっぷりと描くんだけど、春日さんは岡田に話を直接聞かないことで「岡田茂を主役にしてはならない」という縛りを設けている気がするんです。

春日 実はお話を聞くチャンスもあったんです。岡田茂の番頭だった高岩淡さん(取材当時は東映相談役)には15回にわたるインタビューをしていますが、当時、東映の高岩さんの部屋の隣が岡田茂の部屋だったんです。それで「隣にオッチャンいるんだからさ、話聞いて帰れよ」なんて言われてたんですが、頑なに断り続けました。

水道橋 それはどうして?

春日 僕は岡田茂を「唐の玄宗皇帝」として位置づけています。つまり「中興の祖」として東映の最盛期を築いた一方で、晩年になって衰えて「東映を大きく衰退させた一つの原因」にもなってしまう。そういう岡田茂の両面を描かなければ、一つの歴史として語ることはできないですからね。それに岡田茂って人間的魅力がある人だから、会ってしまうと絶対に惚れ込んでしまって書きたいことも書けなくなると思っていたんです。もちろん会いたいし、取材したい欲求を抱えていましたが、あえて、距離を作りました。

水道橋 禁欲的で客観的なノンフィクション作品なんだけど、春日さんの人物へののめり込み方の濃淡が意外とハッキリしているのも読みどころかもしれない。あれほど綺羅星の如くいる監督のなかでも五社英雄なんか、巻頭に五社直筆の書き込みがある台本の写真も載ってるけど、春日さんの五社への尋常でない熱が溢れてるもんね。

春日 これは書きたいというパートはついつい力が入ってしまいますね。それで五社英雄の評伝を8月に文春新書から刊行することになりました。

水道橋 この本は、監督や主演俳優による東映史ではないんです。むしろ映画史はプロデューサーの変遷によって大きく変わっていったことがよく分かるし、でも、それも一つの波なんです。2度、3度読んでいると、これは東映の殺陣師の歴史としても読むことができる。それも別の波。企画の人たちの物語としても読んでいける、いろいろな押し寄せる波を史書に落とし込んでいて、何度読んでも胸が熱くなります。『あかんやつら』は壮大な日本映画史を編み直して、次世代に渡している作品になっていると思います。

 単行本がこうして文庫化されるっていうことは、作品として永遠の生命を与えられる、ということですよ。渾身の解説文を書いたボクからすると文庫を分子と読み変えたいほど思い入れを持ちます。「あかんやつら」は「かわいいやつら」です。だから、読者はこの作品を読み継いで、反響を広げてほしい。本っていうのは、儚いものですから。この儚さをひとりでも多くの人と共有したいんです。

あかんやつら 東映京都撮影所血風録
春日太一・著

定価:本体1,020円+税 発売日:2016年06月10日

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