佐藤さんにお会いしてまず驚いたのは、互いの父親の職業がまったく同じということだった。電気技術者であり、なおかつ銀行に勤める…。私は父の職業について詳しいことを知らなかったが、佐藤さんによれば、銀行のビルの電気系統の管理をする仕事であるという。

 なるほど、そうしてみるとこの対談は、父親の職業がまったく同じであるという二人の人間が、片や神学に進み、片や科学に進んだが、著述の世界で合流し、話し合ってみたらどうなるかという試みでもあったわけだ。

 五回にわたる対談は初めこそなかなかかみ合わなかったが、三回目以降にようやく四つに組んだ、「ガチンコ対決」になった。ガチンコすぎてほとんどケンカになったことがしばしばあり、本書にはそんな“実況中継”が何回か収録されている。

 ケンカの達人にケンカを挑むなんて…と思われるかもしれないが、お互いの信念をぶつけあったところそうなっただけの話である。

 隣人の問題についてはもちろんのこと、聖書についての実に素朴な疑問に佐藤さんは実に真摯に答えてくださった。なぜ佐藤さんが神の存在を信ずることができるのか、キリスト教との佐藤流つきあい方についても理解できたつもりだ。

 本書は宗教、科学に限らず、また宗教に苦手意識のある方など、どんな分野の方にとっても意義のある内容になったと自負している。

竹内久美子(たけうち・くみこ)

竹内久美子

1956年愛知県生まれ。京都大学理学部を卒業後、同大学院に進み、博士課程を経て著述業に。専攻は動物行動学。
著書に『そんなバカな! 遺伝子と神について』『パラサイト日本人論』『シンメトリーな男』『同性愛の謎』『本当は怖い動物の子育て』など多数。


佐藤優(さとう・まさる)

佐藤優

1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了。
著書に『国家の罠』『自壊する帝国』『交渉術』『私のマルクス』『同志社大学神学部』『神学の思考』『宗教改革の物語』など多数。