2015.02.04 特集

誰も見たことのない田中麗奈が誕生
今を生きる女性たちのリアルをドラマに

文: 新井 順子 (テレビドラマ・プロデューサー)

『三面記事小説』 (角田光代 著)

 角田光代さんの小説をテレビドラマ化したいという長年の願いがかなった。原作は短篇集『三面記事小説』の一篇「愛の巣」。実はそれ以前に『紙の月』のドラマ化を申し出たことがあるが、すでによそに決まっていて悔しい思いをした。原田知世さん主演、NHKでドラマ化されたときは、“私ならこうするのに”と思うところもあったが、梨花という主人公を演じた原田さんが、それまで見たことのないような表情や演技を見せていたのに目を見張った。

左から)寺島しのぶ、田中麗奈、原田美枝子、板谷由夏

 角田さんが描く女性たちは、ときに平穏な生活から外れ、道徳に反することや犯罪にまで手を染める。読者は彼女たちの変貌や堕落を、他人事として読んでいないような気がする。ふとした拍子に自分もそうなるかもしれないというリアリティを感じているのではないか。今を生きる女性の誰もが身近に感じ、共感する人物を創造できるのが、角田さんなのだと思う。テレビドラマの視聴者は主に女性である。ならば、角田さんの作品をドラマ化しない理由はない。

「愛の巣」の登場人物はある姉妹とそれぞれの夫の、ほぼ4人だけ。物語は妹の視点で語られる。妹との連絡を断ち、自宅にこもって社会から孤立していく姉夫婦。ずっと自分の方が幸せと思っていた妹の家庭も実は……という話で、今思えば自分にも姉がいて、自分の方が幸せと思いたい、幸せに見せたいという生々しい心理など、何となく分かる気がする。それがこの原作を選んだ理由かもしれない。

 ドラマ化を申し出るにあたって、原作からの重大な変更をお願いした。姉妹ではなく、原作にない別の人物を主人公として、その人物が姉妹の隠された感情を暴いていくサスペンスをとりいれたいと申し出た。幸い角田さんにはご快諾いただいた。『三面記事小説』は実際に新聞の社会面に載った小さな記事から角田さんが想像をふくらませて書かれた作品集で、ドラマの主人公は田中麗奈さん演じる新聞記者・長谷部章子とした。章子は角田さんの創造した人物ではないが、田中麗奈さんは、これまで誰も見たことがない田中麗奈を見せてくれたと思う。姉妹を演じるのは寺島しのぶさんと板谷由夏さん、章子を支える捜査一課の刑事・梨山里衣子に原田美枝子さん。いずれ劣らぬ実力派女優4人の競演を実現できた。

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三面記事小説
角田光代・著

定価:本体510円+税 発売日:2010年09月03日

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