喧嘩の売り方
与えられた仕事に全力を尽くす。それがサラリーマンだろ
〈倍返し〉完遂ののち、まさかの出向――。シリーズ前作の衝撃的なラストを受けて始まる『ロスジェネの逆襲』。半沢直樹は、東京中央銀行系列・東京セントラル証券の営業企画部長に左遷の身。そんな最中、親会社の証券営業部との顧客獲得争いが勃発。矢面に立たされることになる。
倍返しどころか、銀行に戻れるかどうかも微妙な立場に。それでも進むしかない彼の、サラリーマンとしての諦念が滲む一言。
人事が怖くてサラリーマンが務まるか
しかし、そこでおとなしくしていられないのが、半沢の半沢たる所以。銀行への徹底抗戦を決意した彼は、心配顔の部下に向かってこう言い放つ。チーム全員を奮い立たせるための、鮮やかな宣戦布告だ。
世の中と戦うというと闇雲な話にきこえるが、組織と戦うということは要するに目に見える人間と戦うということなんだよ
敵の姿を曖昧にしない――これも、半沢流・闘いの鉄則のひとつ。相手を正しく捉え、確実に打てる手を打っていく。千里の道も一歩から。
どんな世代でも、会社という組織にあぐらを掻いている奴は敵だ。内向きの発想で人事にうつつを抜かし、往々にして本来の目的を見失う。そういう奴らが会社を腐らせる
大銀行の看板を外された半沢の目に映るのは、かつて自分も取り込まれていたであろう、大企業にありがちな組織の病理。立場を失うのは辛い。しかし、そうしてはじめて見えてくる真実もまた、あるのだ。
生憎、我々は結果が全てだとは思っていないんでな。君がやったことは、絶対に許せないし、必ず借りは返させてもらう
最も憎むべきは、同僚を裏切る卑怯者。子会社を踏み台にした同僚への鋭い言葉の先制攻撃で、自身のやる気に火をつける。
ゴミ扱いしているのではありません。ゴミだと申し上げているのです
半沢の名ゼリフといえば「やられたら、倍返しだ」。苦境にあっても、負けん気は死なず。本作でも半沢は、争う相手の杜撰な仕事ぶりを〈ゴミ〉とバッサリ切り捨てる。
口の悪さには定評のある(!)彼だが、このダメ押しゼリフの慇懃無礼ぶりは痛快無比。ああ、一度でいいから言ってみたい! 全サラリーマンの羨望を一身に集める、〈倍返し〉の実践形。
同僚へ、部下へ
上が悪いからと腹を立てたところで、惨めになるのは自分だけだ
『ロスジェネ~』においてクローズアップされているのは、半沢の上司、先輩としての側面。団塊の世代との軋轢(あつれき)に苦しんだバブル世代としての思いを、ロスジェネ世代の部下や、取引先の若い経営者に語る。
その言葉は意外なほどに熱く、また、細やかな思いやりに満ちている。実感のこもった言葉だけが、人の心を動かすのだ。
世の中に受け入れられるためには批判だけじゃだめだ。誰もが納得する答えが要る
上司としての半沢の美点は、決して精神論だけを説かないこと。掲出のセリフのように、ままならぬ状況を打開するための具体的な方法を、いつでも的確に指し示す。
「いやぁ、部下が言うことを聞いてくれなくて」とボヤく前に、自分の言うことに果たして実効性があるのか? と振り返ってみるべきか。
組織に屈した人間に、決して組織は変えられない
仕事は与えられるもんじゃない。奪い取るもんだ
この二つは、それぞれ同世代の親友や同僚に向けられたセリフ。仕事や人生経験を積み、それぞれに背負うものがあるからこそ言える、また、言われて揺さぶられる言葉がある。それを素直に聞ける耳と受け取る心を持っているかどうかが、分かれ道なのかもしれない。
お前たちには、社会に対する疑問や反感という、我々の世代にはないフィルターがあり根強い問題意識があるはずだ。世の中を変えていけるとすれば、お前たちの世代なんだよ
そして、ときに反逆者でありながら、半沢は希望を語る男である。就職氷河期をくぐり抜けてなお理不尽に曝されるロスジェネ世代、彼らにしかできない変革があるのだと。闘うリーダーであるからこそ、その言葉は、上滑りではない説得力を持つ。
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