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追悼・宇江佐真理 うえざっちは最後まで気遣いの人だった

追悼・宇江佐真理 うえざっちは最後まで気遣いの人だった

山本 一力 (作家)


ジャンル : #随筆・エッセイ

お互い田舎の意気を持っているから、等身大にふるまえた

 彼女が東京に来られたときには、うちの息子ふたりも同席して家族で会うことにしていた。場所は、銀座の長崎料理店や高知料理店など、ごくごく普通の場所。うちの子供もうえざっちと会うことをとても楽しみにしていたね。うえざっちにもふたりの息子さんがいらしたけれど、あるとき彼女が「一力さんのところは、これから食べ盛りを迎えるのよね。うちはもうふたりとも大きくなったものだから、昔のようには食べないのよ」と話してくれたんだ。しんみりと話すから、じっくり聞いたら、大晦日にはみんなで集まってすきやきを食べると言うんだな。だからそれ以来、我が家と宇江佐家で贈り物交換が始まった。

 

 うちからはすき焼き用の肉を送り、うえざっちからは荒巻鮭のたくさんの切身が届いた。極上の鮭で塩加減も見事、焼くと最高にうまいので、中学生だった長男はなくなるまでかみさんに毎日鮭弁当をねだって、学校で「ミスターサーモン」と言われたらしい(笑)。そんな話をしたら、彼女も「函館で一番のお店にお願いしているからね」と喜んでくださった。

 函館のうえざっちの家にもお邪魔したことがある。台所の脇にワープロとファックスが置いてあって「ここが私の仕事場よ」と嬉しそうに説明してくださった。あれだけの素晴らしい小説をここで書いてらっしゃるのか、と思うと胸にぐっときたね。

 あいつは本当に気取らないやつだった。うえざっちは函館、おれは高知、お互い田舎の意気を持っているから、偉そうなところは一切なく、等身大にふるまえた。ご主人と仲が良くて、一緒に高知に旅行した話も聞いたけど、それだって普通のバスツアーで行ったっていうんだからね。

 おれが直木賞をいただいたとき、周囲からたくさん花をいただいたんだけれど、あいつがくれたのは米。「花より団子っていうじゃない」って笑っていたけど、子供が小さい我が家には本当に助かった。そんな気遣いのできる人だった。

 元気になられたら、また家族一緒に会いたいと思っていたのに、いまはもう、寂寥感だけが残る。うえざっちとおれは一歳違いのほとんど同級生だった。だから、本当につらい。

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