- 2017.10.31
- 書評
十年の時を越え、ホーチミンから東京へ。Sawakiへの追走は、まだまだ続く。
文:田中 長徳 (写真家)
『キャパへの追走』(沢木耕太郎 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
沢木は本書の姉妹編『キャパの十字架』発表ののち、貴重なクラシックなラジオ番組の音声ファイルを手に入れてキャパの肉声に触れて個としての独創性に感激する。
偶然の機会から大昔のインタビュー番組の録音を発見した沢木がそこで深く印象づけられたのはキャパの話す英語の外国人としての訥弁とアクセントのことであった。
私が親交がある世界的に有名な映像作家で、Andy Warholも絶賛した男にリトアニア出身の映画監督、ジョナス・メカスがいる。彼の英語も訥弁なのである。第一世代の外国人として移民した人々にはこの言語の真実と言うものがある。
メカスは出版した本のなかでリトアニア語のポエムについて語っているが、やはり詩と言うものは母国語でないと正しくは理解できないと言っているのだ。
しかしそれが翻訳であるとしてもオリジナルな言語のパッションは翻訳で通じるのではないかと私は考える。
私の好きなサン=テグジュペリの一連の作品に触れることができたのは、フランス語がわからない私にとっては、翻訳者の堀口大學が手伝ってくれたからと言える。家人が大學の遠縁にあたるということを後に聞いてその奇妙な偶然にびっくりした。
外国人なまりのある長い台詞をジョナス・メカスは彼の自叙伝映画でとうとうと語っているが、そこには彼本来の歴史が開かれているのである。同じ意味で沢木がキャパの生きていた声に出会ったのはワクワクすることだっただろう。
話は沢木と最初に出会ったホーチミン空港のラウンジに戻る。どうやって沢木に声をかけようかと私は考えた。ちょっと意外だったのは、大作家にもかかわらず彼は一人で旅していた。
この空港のラウンジにはモスキートが多かった。しばらく観察していたら沢木は立ち上がって両手で彼の近くにまつわりつくモスキートを撃墜し始めたのである。両手を打って叩くから静かなラウンジに沢木の柏手が響き渡った。
私はゆっくり立ち上がり彼に近づいてこういった。
こんばんは沢木さん。
ここは蚊が多いですね。
それから会話が始まった。沢木は私の著作を覚えていてレニ・リーフェンシュタールについての本も読んだと言ってくれたのは嬉しかった。
一人旅の男同士が出会った場所だから会話は非常に気さくなものであった。
沢木は初めてのヴェトナム旅行であると言う。私は『深夜特急』の愛読者であるから合点がいった。あの頃は通信社のビザがないと旅行者はヴェトナムには立ち入れなかったのである。私の卒業した日本大学写真学科の同級生、一ノ瀬泰造は通信社のスタッフになってがむしゃらに戦場に赴いた。そしてKhmer Rougeにやられてしまった。
ホーチミン市では一ノ瀬はキャパと同じ位有名であったのにはびっくりした。タクシードライバーが一ノ瀬の名前を知っているのでホテルから乗ったタクシーでまず戦争証跡博物館に連れて行ってもらったらそこには一ノ瀬の巨大な展示スペースがあった。
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