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ふたり芝居『家族熱』、連続ドラマ「春が来た」制作者が語り合った向田作品の魅力と可能性【後編】

ふたり芝居『家族熱』、連続ドラマ「春が来た」制作者が語り合った向田作品の魅力と可能性【後編】

合津直枝(テレビマンユニオン) 松永 綾(WOWOW)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

松永 綾(まつなが・あや) 九州大学卒業後、WOWOWに入社。宣伝部を経てドラマ制作部へ。『人質の朗読会』がモンテカルロ・テレビ祭で「モナコ赤十字賞」と「SIGNIS 賞」をダブル受賞。『向田邦子イノセント』『ふたがしら』など制作多数。

松永 向田さんは「禍福は糾える縄の如し」とおっしゃっていましたけど、幸せと不幸は表裏一体だと思うんです。それを踏まえた普遍的なメッセージをドラマで伝えていきたい。安易なハッピーエンドにしてはいけない、という自分の価値観、人生観は、向田さんの作品を読んできて、知らず知らずのうちに形成されてきたような気がします。

 脚本打ち合わせをしていると、脚本家や監督の方と、自分の主観、たとえば登場人物の幸せについてどう考えるかをぶつけ合ったりするわけですが、そういう時に向田さんの作品を通じてその神髄に触れたことは、自分の中で血となり、肉となっていることを制作者の立場として実感しますね。向田さんの作品には、根底に人間の品格がきっちり描かれているので、そこに対する絶対的な安心感があるんです。

 一方で向田さんの生きた時代、テレビがいちばん面白かった熱のようなもの──ハチャメチャだった時代の冒険心や遊び心みたいなものを受け継ぎたいと思うこともあります。そこで今回のドラマ「春が来た」では、原作の風見という来訪者の役を、韓国人のイ・ジウォンというキャラクターに変更しました。

合津 松田優作さんが演った役でしょう? なかなか大胆ですね。

松永 現代リメイクにあたって、家族と来訪者の距離感に現代性をもたせようとひらめいたんです。一見、違う価値観が家族に侵入してくることで、かえって現代の家族の実像や失われたものがみえやすくなるのではないか、そして違いの先にある普遍的で本質的な人間の姿が鮮明に浮かび上がるのではないかと考えました。

 私自身、今、東京で暮らしながら感じること、例えば外国の方と肩を並べて働いていること、よく行く行列のできる讃岐うどん屋さんには日本人スタッフがひとりもいないことなど、そんな現代社会の身近な感覚が「春が来た」とぴたっとシンクロしたので、向田さんの持っていた冒険心に勇気をもらって、大胆にアレンジさせていただきました。

 実際、カイさんという韓国の方に来訪者のジウォン役を演じていただいたんですが、多少つたなくても、真っ直ぐに言葉を紡ぐ姿が、かえって心の奥までセリフが響く。彼が、家族ひとりひとりの心を揺り動かしていくストーリーに、リアリティをもたらしてくれました。そんな変化が、実際の撮影現場でも起こったのは、すごく面白かったです。

合津 外から異邦人がやって来て、そこから家族が変容していくという話だから、構造的にも正しいわけですね。

松永 さきほどの普遍性の話ではないですが、互いの国の現場の違いを話していても、最後は万国共通で現場は大変(笑)、そして一生懸命にいいものを作ろうとする姿勢は、文化的背景が違っても変わらない。カイさんにみんなが虜になって、「春が来た」のドラマで伝えようとしていることと、実際の撮影現場がオーバーラップして、最初から意図したわけではないですけれど、色んな発見がありました。それも向田さんの作品をお借りしたからこそできた挑戦だったと思います。

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