- 2018.01.15
- インタビュー・対談
ふたり芝居『家族熱』、連続ドラマ「春が来た」制作者が語り合った向田作品の魅力と可能性【後編】
合津直枝(テレビマンユニオン) 松永 綾(WOWOW)
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#エンタメ・ミステリ
計算された『家族熱』
合津 東日本大震災以降、私は上っ面をなでるようなものを、わざわざ作る必要はないと思っているんです。それはテーマ的なことですけど。
一方で向田さんの作品はテクニック的というか、表現にも痺れるものがたくさん詰まっています。たとえば、今度、演出する(企画・台本も)ふたり芝居『家族熱』の中に、「不幸は幸福と同じくらい、女を酔わせるものがある」というセリフがあるんです。色んな事情で一度は家を出た後妻の女主人公が、亭主が贈賄で捕まって保釈されて帰ってくる日、家に戻って「私はこの男のためにご飯を作ってやっている」という場面で、女として不幸に酔っている、と書けるなんて、もう本当に「邦子、やるな!」って(笑)。
松永 痺れますよね(笑)。
合津 この『家族熱』という作品は、ドラマシナリオですけれど、私の考える向田さんの生々しさ解禁の直前にあたる作品になるんです。そこでは、三國連太郎演じる亭主をめぐって先妻(加藤治子)と後妻(浅丘ルリ子)、三浦友和演じた長男をはさんで実の母と育ての母、後妻から見た男としての亭主と息子といった、いくつもの三角関係が描かれていて、それがお互いにお互いを引っ張り合っているんですね。
先妻は結婚十三年目に離婚して家を出ていて、そこに後妻が入って十三年目に、再び先妻が家族の前に現れる。両者が同じ年月、結婚生活をしているわけで──『家族熱』は物語の構造上も見本のようにうまく作られているんですよ。
長男は歳の近い継母に、実は恋愛に近い感情をもっているんだけれど、それを決して言葉にはしない。家族という、決められた枠組みの中での寸止めの恋情のようなもの、お互いに意識しながらも一歩を踏み出さない微妙な良識や理性をブラウン管越しではなく、俳優がナマで舞台で演じたら楽しめるんじゃないか――もともとのドラマの十話目くらいのところから三年後という設定で、自由に脚本を書かせてもらいました。
松永 『家族熱』も大胆なアレンジを加えられているじゃないですか! そのお話を聞いて安心しました(笑)。
合津 もともとは二〇一六年、沢木耕太郎さんの『檀』のふたり芝居を、向田和子さんが観に来て下さって、「よかったわ。向田のもやって」と言ってくださったのを真に受けて(笑)。
後妻役のミムラさんは、実は一一年のNHKの番組に向田邦子さん役でご出演いただいたんですが、その時も素晴らしくて。本当によく向田邦子さんの世界を理解している、伝道師のような方です(笑)。長男役の溝端淳平さんは屈託がないまっすぐな青年で……。エリートの麻酔医で、十二歳しか年の離れていない綺麗な義理のお母さんへの気持ちを抑えているという難しい役に挑戦してもらいます。もちろん向田作品は初で。
まあ、私も勝算があるわけではないですけれど、むしろ両方が向田さんの世界を熟知しているより、ナマの舞台だからこそ違う火花が飛び交って、お互いに発見があった方が、お客様にも楽しんでいただけるのでは、と思うんです。
松永 どんな化学反応が起こるか楽しみですね。
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