- 2018.04.13
- 書評
野球を通して描かれる女性たちのドラマ。 不覚にも涙してしまった「輝き」の季節。
文:和田 豊 (阪神タイガース・球団本部付テクニカルアドバイザー)
『輝跡』(柴田よしき 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
主人公の北澤宏太がプロ野球ドラフト会議で指名される時、彼の周囲の人間がそれぞれの思いを胸にその瞬間を待つ場面がある。そこから彼にまつわる様々な人間模様が展開していくことになる。現在のドラフト会議では、各ドラフト指名候補の選手とテレビ中継が繋がっていて、指名をされた直後にその選手にインタビューができる。また、ドラフト会議の会場にファンも参加ができ、応援するチームの選手が指名されると会場を盛り上げてくれるのだ。そして各球団の最後の指名、育成ドラフトの最後の一人までテレビで中継される。そんなショー的な華やかなドラフト会議は、三十三年前にはなかった。私は大学の寮の部屋に一人でいて、どこかの球団から指名される時を待っていた。当時は午前に行われていたので、チームメイトは皆授業に出ており、私の周りには誰もいなかった。ドラフト会議の中継は一巡目のみで、二位以下の指名は、後に大学にかかってくるスカウトからの電話で本人に伝えられるのだ。それから関係者や知人に知らされる。北澤宏太同様、私の周囲の人達は、当時どんな思いで知らせを待っていたのだろうと思うと、今さらながら胸が熱くなる。
運命――そうだ運命だったのかもしれない。私がプロ野球選手になった事は。一九八四年、ロサンゼルス夏季五輪で野球は公開競技だった。その前年に東都大学野球リーグで首位打者になった私は、内野手として選抜された。実はロサンゼルス夏季五輪の時に、子供の頃からの夢であった教員の採用試験があり、どちらかを選ばなくてはならなかった。私はオリンピックに出場することを選んだのだ。そしてロス五輪に参加をして、アメリカと決勝で争い、優勝した。当然、チームメイトにはその年にドラフト会議にかかるであろう選手がいた。グッと「プロ野球」という世界が身近に感じられた。そうだ、これが運命だ。この出来事が私の輝跡の始まりだったのかもしれない。
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