“走るホテル”の掉尾を飾る
だが、「あさかぜ」としてのデビュー当初は最新鋭の設備を誇った20系も、それから20年近くが経過した昭和50年代になると、新世代の寝台客車で寝台の幅が広げられたりB寝台も2段式が主流になっていて、狭苦しい3段式B寝台の設備は時代遅れになっていた。そこで、比較的新しい時期に製造された20系は急行列車に格下げして有効活用することとなり、「銀河」や「天の川」に投入されたのだ。
その後、昭和55年には20系で運行される定期寝台特急が消滅。これにより、20系はもっぱら寝台急行や繁忙期の臨時特急にのみ使用されるようになる。とはいえ、東北・上越新幹線開業前後の東日本では、夜行列車が長距離輸送の主役を担う時期がなおしばらく続いた。『交通公社の時刻表』の昭和57年7月号を開くと、平成28年3月に札幌行き豪華寝台特急「カシオペア」が廃止されて絶滅した上野発の夜行列車は、定期列車が「天の川」を含めて毎晩25本、臨時列車も15本掲載されている。
こうしてみると、20系寝台急行「天の川」が活躍したのは、夜行列車が本格的に衰退し始める直前期だったと言えるだろう。老いさらばえたとはいえ戦後の鉄道史に大きな足跡を残した“元・走るホテル”の車両が充当され、最後は新幹線への旅客の禅譲を理由に余力を残して引退した「天の川」は、地味ながらも幸運な列車であった。その最後の旅路の様子を甦らせてくれる本作品の再刊を、静かに喜びたい。
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