遺産を相続し、辺境の星々をつなぐ
絶対的な中心なき世界──、それは日本にとって実はきわめて例外的な状況です。これまでの定型的な日本論は、おおむね外部の絶対的なモデルの存在を自明の前提にしていました。しかし、今や中国や欧米という確固たる「父」は弱体化し、その結果として、日本は一種の方向喪失に陥っているように見えます。日本論ないし辺境論のパターンを修正しなければ、新しい現実に対応するのは難しそうです。
では、どうすれば日本は戦術を組み直し、新たな文化を構想できるでしょうか(ここで言う「文化」とは、世界と人間の関係を作る技法の集積のことです)。一つの道筋は、いわば「筋金入りの辺境」である香港と日本の歴史的体験を改めて参照してみるということです。新しい現実に対応すると言っても、それまでの蓄積を無にすることはありません。辺境に蓄えられた「遺産」を中心なき世界でいかに相続していくか──、それが本書の大きなプランになります。
もう一つのプランは、中心とのツリー(樹木)的なつながりに頼るのではなく、辺境どうしのリゾーム(地下茎)的なつながりを構想することです。特に、辺境文化の特性を日本から考えるだけではなく、他の辺境との比較において考えるだけでも、日本という閉域に閉ざされる危険性はずいぶん少なくなるでしょう。本書の題材はもっぱら香港と日本に限られますが、いずれは世界史の辺境の星々を結んで、新しい星座を創出するという大きなストーリーにつながっていけばよいと僕は考えています。
日本は世界(普遍的なもの)への通路を再建せねばなりません。文明の中心がもはや頼りにならないからこそ、辺境の遺産を変形的に受け継ぎつつ、他の辺境との新しいつながり方を考えるべきです。【#2へつづく】
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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