辺境と辺境を比較する
本書は「辺境」を主題としています。より具体的には、日本と香港という二つの辺境の比較が中心にあります。ここで言う辺境とはひとまず、自前の文化的なスタンダードを築く代わりに、中心のスタンダードを変形させて生き延びてきた地域を指すと考えればよいでしょう。では、なぜ今そのようなテーマが必要なのでしょうか? 僕の観点から言えば、それはまず、日本の自己認識の座標を変えるためです。
震災後の僕の仕事は、一言で言えば、日本の文学とサブカルチャーを、近世以来の東アジアの歴史的環境のなかで再考するというものでした。つまり、広い意味での「文明論」です。ただ、そのときから不思議に思っていたのは、たいていの日本論が中国ないし欧米とは異なる島国の「辺境性」を強調するばかりで、他の辺境に対してほとんど関心を示さないことです。近年ベストセラーとなった内田樹の『日本辺境論』(二〇〇九年)にもそのような傾向は及んでいます。そこには日本以外にはほぼ欧米と中国しか出てきません。
それにも一定の有効性はありますし、内田の議論から学べることも多くありますが、やはり盲点は生まれます。例えば、かつて評論家の加藤周一はイギリスやフランスの文化が「純粋種」であるのに対して、日本の文化は伝統的なものと西洋的なものの混ざった「雑種」だと評しました。*1
*1 「日本文化の雑種性」(一九五五年)『加藤周一セレクション5』(平凡社ライブラリー、一九九九年)所収。
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