芸術が難しい学問である理由を、冒頭に三つ挙げましたが、四つ目を忘れていました。それは「終焉」がないこと。
芸術という学問に終わりはありません。誰もゴールを設定してくれないからです。自分で問題を発見し、それに答える意志さえ持ち続けるのであれば、いつまでも学び続けることができます。いや、学び続けねばならないよう、自分に課してしまうのです、一度でも芸術の魅力に取り憑かれてしまうと。ラストの描写から察するに、おそらく若菜さんも友親も、当面は筆を折らないでしょう。表現する意欲は燃え上がるとそうは簡単に消えてくれません。失敗しても挫折しても貧苦に喘いだとしても、炎に新たな燃料を投下してしまうからです、他の誰でもない、自分自身が。
芸術を学ぼうとする以上、常に自問し、常に自答する日々は終わらず、経済的、社会的な苦労がついて回ります。表現でメシが食える人間なんて、本当に一握りなのですから(興味のある方は額賀澪さんの新刊『拝啓、本が売れません』〈二〇一八年、KKベストセラーズ〉を読んでみてください。文芸というジャンルの話ですが、表現者の直面する現在的な、現実的な苦悩が痛いほどわかります。ちなみに絵画は文芸に輪をかけて食えません)。
ただ、だからといってその辛く険しい道を選ぶ若者を私は止めたくないと思います。現実で若菜さんや友親のような若者と出会ったら、私は全力で応援するでしょう。なぜと言うに……孤独よりも賑やかなほうが楽しいからです、同じ地獄なら。
叶うことなら、若菜さんや友親が花房美術大学を卒業した後の姿も読んでみたいと思います。彼らがどんな顔で地獄を歩んでいるか、一八年前からかれこれ人生の半分を地獄で過ごしている私としては、先輩面して眺めてみたいのです。
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