エイリアンハンドシンドロームという奇妙な疾患に冒された高校生の岳士。片腕がまるで何者かに乗っ取られたかのように勝手に動くのだ。しかし岳士には、自分が原因で亡くなった兄・海斗が腕に宿っているかのように感じられ、治療を拒絶し家を出る。ところが辿り着いた河川敷で刺殺体を発見し、犯人と目されてしまうことに。仕方なく真犯人を探るうちに、事件の裏に危険ドラッグとそれを売りさばく集団「スネーク」の存在があることを突き止めるも、今度はスネークを張っていた刑事の番田に捕捉され、スパイになるよう持ちかけられる。首尾よくスネーク内部に食い込むが、思いがけず摂取してしまったドラッグにはまり、抜け出せなくなっていく。
第十章
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街灯の光が、ベンチに座る岳士に降り注ぐ。気の長い夏の太陽も沈み、しっとりとした闇が辺りに降りていた。
岳士は額を拭う。それほど気温が高いわけでもないのに、手の甲にべっとりと粘度の高い汗がつく。
午後二時頃に目的地であるこの大学に到着した岳士は、昨夜と同じように外にバイクを停め、徒歩で構内へと入った。あか抜けた雰囲気の大学生たちの姿がある歩道を進んでいき、辺りに人がいないことを確認して林の中へと入ると、昨日訪れたプレハブ小屋へと向かった。
樹の陰に身を隠しつつ、数十分かけて小屋の様子をうかがったが、中に人がいる気配はなかった。錬金術師はまだ来ていない。そう判断した岳士は歩道に戻ると、少し離れたベンチに腰掛け、林の中に入っていく怪しい人物はいないか数時間監視し続けた。しかし、いまだにめぼしい人物は見つけられずにいた。
時刻は午後七時を回っている。すでに五時間以上、このベンチに腰掛けていることになる。最初のうちは良かった。サファイヤがもたらす優しい悦楽に身をゆだねていられたから。しかし、時間が経過するにつれ快感は薄れていき、それに代わって炎に炙られるような焦燥感が襲い掛かってきた。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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