例えば、招かれた席でお薄と誂え菓子を出してもらった時、その菓子の色や形には、ホストが菓子職人に託した何らかのメッセージがある。
季節か、景色か。和歌か、行事か。もちろん器との取り合わせにもひと工夫ある。
その暗号を解読できて素直な感想を漏らしたとき、ホストの顔がぱっと明るむのを見るのは本当にいいものだ。
代わりに、暗号を解読できなければ、文字通り「お話にならない」。
その駆け引きがあるゆえに、和菓子は謎解き小説に合う。
つまり、和菓子は「食べる暗号」なのだ。
一方、暗号が解読できなくとも、食べておいしい、ただそれだけで成り立つようにつくられているのが和菓子のやさしく、懐深いところでもある。
本作でも、大人たちの悲喜こもごもをよそに、子供たちが素直に食べ物としての菓子を味わうシーンが印象的だ。
例えば、「母と似た女――端午」に出てくる「上菓子の味噌餡」。
晴太郎と茂市が捻り出した、白大角豆(しろささげ)の漉餡に信濃の白味噌を混ぜた餡だ。
色はおそらくこっくりとしたきなり色だろう。白味噌のまろやかな甘みと塩気がしみこんだ、ベルベットのような舌触りの白餡を思うだけで、つばが出る。
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