そして、最も食指が動いたのは、漉餡のあん玉の中に賽の目切りの蒸かし芋を仕込んだ「光琳菊(こうりんぎく)」。丁稚の身分で意見するなど幸次郎に睨まれそうだけれど、できれば「光琳芋」のネーミングで突き抜けてほしい。山芋と薩摩芋のねっとり感、小豆の漉餡と薩摩芋のほくほくしたでんぷん質がかけ合わさって、それはおいしい薯蕷饅頭(じようよまんじゆう)だろう。
「世の中にゃあ、まだまだ面白ぇ菓子が散らばってるもんでごぜぇやすね」
そう思わず茂市の口真似をしたくなる、ありそうでないあんこの描写も本作の読みどころなのである。
あんこ好きに悪い人なし――。これは目下検証中の私の持論だ。
『藍千堂』をめぐる人々のやりとりを読んで、その確信をますます深めた。
その証拠に、田牧大和さんは物語の折々に登場人物たちが菓子を食べるシーンを情感豊かに、そして意味ありげに織り交ぜている。
口にしない人物も、いるかもしれない。
誰がどのように晴太郎たちの菓子に接しているか。そんな田牧さんからの暗号も、ぜひつぶさに観察しながら読んでいただきたい。
和菓子は季節を映すが、食べ手の人となりをも映す。
自称・『藍千堂』の丁稚として、田牧さんと晴太郎たちが繰り出す暗号を解けるよう、せいぜい修業を重ねながら続編を待とうと思う。
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