さて、この展覧会では、最終的に百点を超える作品を国内外からかき集めましたが、すべてに中野さんの解説をつけるのは難しいため代表的な出品作に絞って大きめのパネルを掲出(各四百字)、それ以外の作品については学芸員が分担して小さなパネルに百字あまりのミニ解説をつけることにしました(全部の作品について中野さんの文章を読みたかった皆さんごめんなさい)。書籍としての『怖い絵』と比べたら遥かに小規模とはいえ、会場全体で原稿用紙五十枚分近くの量の文章を読んでいただくことになります。来場者に強いる負担の大きさをしつこく心配しましたが、幸いなことに杞憂に終わりました。開催中に寄せられたアンケートでは、パネルの小ささに関する苦情はさておき、内容や文字の多さについての文句はほとんどなく、短いとはいえ解説がたくさん読めてよかったという声が多数を占めました。
さらに好評を博したのが音声ガイドです。これは、先述のパネル解説とは別に会場二十か所で中野さん書き下ろしの解説をイヤホンで聴くシステムで、入場料とは別途料金が発生するにもかかわらず、兵庫会場で約三割、東京会場では実に半数近くの来場者が利用、内容の面白さ分かり易さがアンケートやネット上で絶賛されました。吉田羊さんの語りの巧さもさることながら、中野さんの言葉がいかに流麗かつ訴求力があり、鑑賞体験を豊かにしてくれたかの証でしょう。普通の展覧会であればせいぜい総入場者の一、二割程度しか使わないこの音声ガイド、私個人としてはあくまで展示のおまけ程度の認識しかありませんでしたが、本展に限っては展覧会の本質を構成する核心的要素として機能したといえそうです。
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