インタビューほか

【特別対談】林真理子×髙見澤俊彦「小説から音が見えてくる」#1

オール讀物2018年8月号より

同じ年に生まれ、同じ街で青春時代を過ごした二人が語りあうあのころの東京、音楽、そして小説のこと。オール讀物8月号に掲載された対談を3回にわけてお送りします。

 そんな学生生活の中でも、サルトルとか読むのが時代ですよね。あの頃って、よくわからなくても読んでみた。実存主義がどうしたとか。

髙見澤 僕は、なぜだかその実存主義にハマっちゃったんですよ。父親が学校の先生をやっていたので、本に親しんではいて、小学校の頃から難しい本を読んでいたんです。

 私は何度読んでも、存在となんとかってわからない。

髙見澤 僕も『存在と無』とか、すべては分からないんですが、ボヤッとした全体像というか雰囲気だけを理解していました。とにかくそれを読むことで自意識を高めていたんでしょうかね。でも、読むことが確実に自分の中のエネルギーになっていた。カミュの『異邦人』しかり、サルトルの『嘔吐』しかり。

 なんだか分からないけど、読んだ振りをしなくてはいけないのが、大学生だったのよね。

髙見澤 まだ学生運動の名残もありましたから。僕らの世代のちょっと上の先輩たちは特にそうでした。

 三菱重工ビル爆破事件が象徴的な場面で出てきますが、物語に時代が反映されてますね。

髙見澤 あの事件は鮮明に覚えています。一九七四年八月三十日。僕らがデビューしたのが、その五日前だったんです。事件はニュースでしか知りませんが、そういう出来事も自分の中で噛み砕いて書いてみたかった。

 ガールフレンドのベッドの下に、前の彼氏のヘルメットが置かれていたシーンはすごくいいですね。あれで時代がとてもよく分かる。

髙見澤 ありがとうございます。

 女の子はみんな魅力的で、とくに学校を辞めてホステスに転身する加奈子さんが好きです。

髙見澤 僕にもあの頃、そういう女性がいたらよかったんですけど。

 何をおっしゃいますか(笑)。

髙見澤 加奈子の場合、ちらっと出すだけのつもりだったけど、書き進んでいるうちに、登場人物の中でも重要な存在になってしまった。やはり書きながら作った感じですね。

 加奈子はしたたかに、二〇一八年も生き抜いていると思います。銀座にクラブを四軒か五軒も持って。

髙見澤 加奈子がそうなって、雅彦はヒモになる話もいいかと思ったんですが(笑)。小説はそんな風に、人の人生をいかようにもできて面白いですね。

 それが書くことの醍醐味ですよね。

#2へつづく「あの頃の原宿、六本木」

音叉髙見澤俊彦

定価:本体1,700円+税発売日:2018年07月13日


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