空也は“その目”で見つめ続ける。理解したい、救いたい、などと願いながら、立花のボクシングを見つめ、ノンちゃんや蒼介と関わり続ける。ノンちゃん以外は、ポスト成長の物語だ。彼らが最後にどこに辿り着くのか、読者のみなさんには、ゆっくりと堪能してほしい。
最後に、空也の“目”について、書いておきたい。
特にボクシングの試合や練習のシーンで、読む者は彼の“目”を感じ続けるだろう。
『空の拳』『拳の先』に共通する空也の目(それはまあ、つまり作者の角田さんの目、ということだが)は、なにしろ執拗だ。闘うボクサーをねめ回すように見て、一挙手一投足を洩らすまいと正確さを志向し、その上で感動や感傷に飲み込まれる目だ。
専門用語は使われるが、ありがちな試合レポートや試合実況の言葉は使われない。最初から最後まで小説の言葉で、執拗な目によってボクシングが表現されている。
だいたい文字でスポーツを描こうとするとき、その対象の幻想を深める方向に描写は向かうものだ。ましてやボクシングという、そもそも幻想に包まれがちな競技ではなおさらで、「地軸がブレるような右ストレート!」などと、普通は書きたくなるものだ。
だがこの小説は違う。
ざわざわとざわめく居酒屋の描写と地続きのように描かれるボクシングだからこそ、次第にその本質が露わになっていく。幻想に囚われていては、本質はわかりはしない。
ボクシングを読む――。
それは幸せで貴重な体験だった。
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