その続編にあたるのがこの『拳の先』だ。空也がボクシングから離れて二年が経ち、今度は文芸の仕事で知り合った作家に、ボクシングジムやボクサーを紹介するという立場で、再び鉄槌ジムや、タイガー立花と関わることになる。
久しぶりに「幸福な錯覚」を得た空也だが、その後は、読んでいても苦しくなるような展開だ。前作に引き続いて読んでいる僕はもう、空也と同じくらい立花という選手に思い入れている。何やってんだタイガー! 岸本という圧倒的才能の前にタイガー立花はもろくも敗れ、その敗れ方のみっともなさに、空也にすら失望されてしまう。何やってんだ、立花!
成長というものは、全てをかき消してしまう(ように見える)。空也や立花は、前作でも今作でも、それぞれ葛藤を抱えている。抱える葛藤が最後まで解決することがなくても、それと向き合い続けることで、少なくとも彼らは成長していく。ランキングを駆け上がっていく立花、編集者として逞しくなっていく空也、そういった成長が全てをかき消すような救いとなるのだが、それは前作までの話だ。
『拳の先』の名の通り、これは「その先」の物語だ。体力の衰えにはまだ少し早い。だがボクサーとしての限界を突きつけられ、その先どう折り合いをつけるのか。どう終えるのか、どこに向かえばいいのかわからないまま、立花は内に外に熾烈な闘いを続ける。立花だけではなく、いじめられっ子のノンちゃんも、作家の蒼介も、鉄槌ジムのボクサー・坂本も、その先を模索し、見失い続けている。彼らは皆、巨大な恐怖に対し、逃げながら闘っているのだ。
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